新解釈、新設定をもとに新たにマキノノゾミさんが脚本を創り上げ、堤幸彦さんが演出を務め、オリジナル作品(新作)として上演される舞台『巌流島』。主演の宮本武蔵を横浜流星さんが演じ、ライバルである佐々木小次郎を、若手歌舞伎俳優の中でも活躍目覚ましく注目度抜群の中村隼人さんが演じます。歌舞伎公演以外での大規模な舞台への出演は今回が初めてとなる中村隼人さんへ作品への想い、意気込みをうかがいました。

 

―この作品出演のオファーを受けた時の気持ちを教えてください。
びっくりしました。大叔父である萬屋錦之介が1960年代に宮本武蔵を五部作に分けて演じていまして、そのときに佐々木小次郎を高倉健さんが演じていたので、お話を聞いた時には、僕が佐々木小次郎を演じさせていただけるの!?っていう気持ちが強かったですね。

 

―隼人さんがイメージしている佐々木小次郎像を教えてください。
巌流島では一撃で倒されてやられてしまうという(笑)。冷静で、小倉藩の剣術指南役で腕に覚えがあり、周りの文科生からも慕われる良い上司像という印象です。新解釈でもその部分では変わらないと思います。武蔵が動であったら、小次郎は静だと思います。関ヶ原の戦いに負けた武蔵と小次郎は、冒頭で出会います。そこから同じ釜の飯を食べる仲となり、相手の強さを知り、憧れになり、ライバル心が生まれ、いつかどちらが強いか戦ってみたいという気持ちの変化がグラデーションのように描かれていきます。出会って生活するところから描かれているので、感情に無理がなく進んでいくと思います。

 

ー隼人さんご自身と似ている部分はありますか?
僕は熱くなって興奮する方なので、どうだろうな・・・。小次郎は誰よりも強くて、自分より強い人には出会ったことがなかったけれど、武蔵に会って、自分よりも強いのではないかと思える憧れやジェラシーを感じる存在になっていく。けれど、その気持ちをストレートにぶつけられない。そういうところは僕と似ているかもしれないですね。

 

ー制作発表の際、佐々木小次郎を演じることが決まっている上で巌流島を訪れたときはどんな気持ちになりましたか?
巌流島に行く前に小倉城にも立ち寄り、小倉城の中で展示をしているものを拝見して、自分が知らない小次郎、武蔵の一面を感じることができました。より理解が深まったと感じています。流星くんとも話しましたが、巌流島に降り立ったときに、島からのパワーがすごくて、会見の前に、“このパワーやばいよね!!”って話をしていました。僕はスピリチャルなことが大好きなのですが、流星くんに変な人って思われたら嫌なので、“ここ独特の空気感があるよね”ってぼそっと言ったら、“ありますよね?”って言ってくれたので、“エネルギーを感じるよね!!”って。巌流島だけがタイムスリップした感じがして、島自体がエネルギーを持っていたのか、エネルギーを持つ二人が決闘したから、エネルギーが生まれたのかはわかりませんが、不思議な感覚がありました。

 

―宮本武蔵を演じる横浜流星さんの印象は?
繊細な芝居をされる方。無骨というよりは、柔らかな中性的なイメージがありましたが、ポスタービジュアル撮影の際に実際に刀を合わせてみて、男くさくて、線の太い無骨な役者さんだと感じました。これだけ無骨な雰囲気を出す人が、話すと物腰柔らかく、そのギャップが魅力的だなって感じました。

 

―2020年の公演は全公演が中止となりました。前回公演から引き続き出演するキャストが多いカンパニーの中に、新たに参加する隼人さんの心の持ち方や意識していることを教えてください。
出来上がっている座組みに入ることは歌舞伎でも経験していますが、独特の空気感がありますよね。このカンパニーは、稽古半ばで上演することができなかった無念さ、熱量は想像を絶するものがあると思います。そこへ入るにあたり、稽古場に新しい風を吹き込めるようにと思っています。僕はわりと仲良くなると素を出すことに時間がかからない人間なので、作品を盛り上げていけたらと考えています。

 

―この作品では、殺陣も多くあると思いますが。
流星くんの殺陣は凄いですよ!!当てる距離感を極めている人だと思います。僕は、どちらかというと歌舞伎などの様式美に特化した立ちまわりをやってきたので、ふたりのやってきたことの違いがぶつかり合うと面白いなと思っています。

 

―東京、金沢など全各地を巡りますが、地方公演ならではの楽しみは?
食事ですね!!その土地の食べ物を食べたり、地酒を飲んだりすることも楽しみですし、劇場ごとに持っている特性も違って魅力があるので、その魅力を見つけていくことが楽しみですね。

 

―長い地方公演の時に持っていくものは?
枕を持っていきますね。1ヶ月同じ場所で公演をする場合は持って行かないのですが、毎日枕が変わるような状況ですと、しっかり寝るために必ず枕は持っていきます。

 

―歌舞伎の公演以外の大規模な舞台へは初出演となります。楽しみにしていることを教えてください。
歌舞伎は長い歴史があり、自分が出演する演目は、先人たちが勤めてきたものです。上演を重ねるうちに研ぎ澄まされて今に至っているので、お手本にするもの、すべきものがたくさんあります。やっていいこと、やってはいけないことという約束事も多いです。一方で、今回の『巌流島』では自分で作ったものを出せ、比較されるものがないという中で作っていきます。そういう意味では怖さもありますが、面白さもあると思っていて、そこは楽しみにしていることです。

 

―武蔵と小次郎のように隼人さんにとってのライバルとは?
昨日の自分というところはありますね(笑)。真面目な話、ライバルっていろいろな意味があると思っています。宮本武蔵と佐々木小次郎でいうと、認め合って、高め合える存在だと思います。嫌いでもライバルということもあるじゃないですか。そういう意味では、好きだけど嫌い。この男が俺のことを一番刺激してくれた、奮い立たせてくれたっていうことでの精神的なつながりもとても強いと思います。どちらかが自分は2番だと思えば収まるところを、譲れないふたりだからこそ面白いと思います。歌舞伎界では、一番刺激を受けているのは、尾上右近くんです。幼なじみで、幼稚園の頃はふたりで駄菓子屋とかに行ったりして、夢を語り合っていた右近くんが、今ではたくさんの媒体に出演されています。この作品への出演が発表になったときには、最初に連絡をくれました。ぶつかった時期もありましたが、今ではお互いを認め合って、尊重しあって、応援できるのは彼だと思っています。

―最後に、公演を楽しみにされている方へメッセージを。
舞台『巌流島』は、紫綬褒章を受賞されたマキノノゾミさんが脚本を担当し、演出の堤幸彦さんは、スペクタルな世界を作ってくださる方です。男臭い舞台になることは間違いありませんが、それだけでなく、武蔵、小次郎の心の動きがグラデーションのように描かれています。ここまで鮮明にふたりの役の心の機微が描かれた巌流島という作品は、他にないと思います。そしてバチバチにやり合うえげつないほどの立ちまわりシーン。二人で共闘するシーンもありますので、楽しみにしていてください。


▶︎中村隼人さんのファッション事情◀︎
―今日のお衣裳のお気に入りポイントは?
今日の衣裳は、Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)です。大好きなブランドで、黒や青系が多いのですが、今回はこの赤のニットがワンポイントです。パンツもパッチワークになっていてかわいいんですよね。

 

―普段はどんなファッションスタイルをされてますか?
全身黒で、Yohji Yamamotoが多いですね。

 

―最近のお気に入りのファッションアイテムは?
靴が好きで、靴はDr. Martens(ドクターマーチン)を集めてます。今日の衣裳のシューズはYohji Yamamotoですが、プライベートは、ハードな革のブーツを履いて、洋服はゆるっとした組み合わせが好きです。

 

―お気に入りのものは集めるタイプですか?
そうなんですよ。かわいいなって思うとつい買ってしまって、履いていないシューズも結構あります(笑)。

 

―お洋服やシューズを選んだりしている時間はご自身にとってのリラックスする時間になりますか?
そうですね。服を選ぶときに、色をあわせるのは大変なので、自分的におしゃれだなって思うものを選びます。服を選んだり、靴を選んだりすることは気分転換になりますね。

 

―舞台についてたくさんお話をうかがいましたが、若手歌舞伎俳優としてご自身の展望を教えてください。
いろいろなことに挑戦していきますが、やはり古典を大切に、意識をしてやっていきたいですし、自分が先頭に立って引っ張っていきたいな、そうならなければいけないと思っています。

 

【profile】
中村隼人/Hayato Nakamura
1993年11月30日生まれ。東京都出身。
2002年歌舞伎座『寺子屋』の松王丸一子小太郎で初代中村隼人を名のり初舞台を踏むと、2007年には『堀部彌 兵衛』のさち役で国立劇場特別賞を受賞。古典歌舞伎だけでなくスーパー歌舞伎II(セカンド)『ワンピース』や 新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』などにも出演し歌舞伎の可能性を追求しており、若手俳優の中でも活躍目覚ましく注目を集めている。2019 年に始まったBS時代劇『大富豪同心』シリーズではドラマ初主演するなど、活躍の場を広げている。

photo:Hirofumi Miyata/styling:Shuichi Ishibashi/hair&make-up:Yuki Kawamata(HAPP’S.)/interview&text:Akiko Yamashita


【公演概要】
■タイトル
舞台『巌流島』
■日程・会場
東京公演:2023年2月10日(金)~2月22日(水) 明治座
金沢公演:2023年2月25日(土)・26日(日) 本多の森ホール
新潟公演:2023年3月1日(水) 新潟県民会館
秋田公演:2023年3月4日(土) あきた芸術劇場 ミルハス
名古屋公演:2023年3月8日(水) センチュリーホール
神戸公演:2023年3月11日(土)・12日(日) 神戸国際会館こくさいホール
高松公演:2023年3月15日(水) レクザムホール(香川県県民ホール)
福岡公演:2023年3月18日(土)~3月27日(月) 博多座
■脚本 マキノノゾミ
■演出 堤幸彦
■出演
横浜流星 中村隼人 猪野広樹 荒井敦史 田村心 岐洲匠 押田岳 宇野結也 俊藤光利 横山一敏 山口馬木也 凰稀かなめ ほか
■公式ホームページ
https://ganryujima-ntv.jp/

(2023,02,03)

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