黒澤明監督の名画を世界で初めてミュージカル化した意欲作、ミュージカル『生きる』が帰ってきます!!
主演を務めるのは、2023年に役者生活50周年を迎えるミュージカル界のレジェンド、市村正親さんと鹿賀丈史さん。そして、本作の語り手で重要な小説家役を平方元基さんと上原理生さんがダブルキャストで演じます。
実は、お二人がダブルキャストで役を演じるのは、2011年のミュージカル『ロミオ&ジュリエット』でティボルト役を務めて以来、12年ぶり。お二人に本作への意気込みやお互いの印象、さらにはNorieM恒例のファッションについてもお伺いしました!!
―今回、小説家という役どころでの出演となります。初演、再演を見て、どんな印象がありますか?
平方さん「ストーリーテラーというのは、お客さんにストーリーを伝えるという役目と、劇中に入って役を演じるという2つの役目を担っていると思います。なので、難しい役だなと。お客さんに語る時は、すでに物語が進んだ後の目線で、時制を巻き戻して話を進めていくことになります。なので、同じ小説家ではありますが、物事を知っている小説家と知る前の劇中にいる小説家の演じ分けが重要になってくると思います。
上原さん「さすが。僕、そんなこと考えてもいなかった。ストーリーテラーってなかなか演じたことないけど、ある?」
平方さん「何回かある。難しいんだよ」
上原さん「そうなんだ、ハードル上がっちゃった。どうしよう(笑)」
平方さん「いや、僕が難しいって思っているだけかもしれないけど、その時に何を知っていて何を知らないのかを把握しながら演じることが大事なのかなと思います」
上原さん「なるほどね。何かの記事で、黒澤版の『生きる』の脚本に小説家の紹介として『メフィストフェレスのような男』という記述があったと読みました。それで、早速、ゲーテの詩劇『ファウスト』を買ったので、そこから参考にしていけたら面白いかなと思います。それから、この作品は、黒澤版の映画の描き方や世界観をすごく大事にして、丁寧に作られていると感じたので、自分もそこにフィットしていけたらいいのかなと思います」
―主人公の渡辺勘治を演じる市村さんと鹿賀さんの印象を教えてください。
平方さん「ずっと背中を見てきた方たちですが、とても優しく、温かい方だなと思います。すごく大きい方で、何があっても『大丈夫だよ』と言ってくださる。その精神力は何ものにも変えられないものだと思います。優しいからフワフワしているわけでもないですし…脳みその中がどうなっているのか見てみたいです(笑)。理生は共演が多いよね?」
上原さん「市村さんとは『ミス・サイゴン』でご一緒しましたが、鹿賀さんとは今回初めてです。なので、まだ未知数なところが自分の中にありますが、“レジェンド”のお二人と共演できるのは役者としてとても嬉しいですし、楽しみです。市村さんは、“芝居おばけ”。歌も芝居として歌うので、回を重ねるごとに本当にすごい方だと思わされます。今回は、芝居で絡むシーンもあるので、お二方に楽しんでいただけるようなお芝居ができたらと思います」
平方さん「僕は鹿賀さんとはご一緒させていただいたことがありましたが、市村さんとはまだご挨拶をさせていただいただけなんです。鹿賀さんとご一緒したのは、2013年のミュージカル『シラノ』という作品でした。『ロミオ&ジュリエット』、そして、ミュージカル『エリザベート』の後だったと思います。当時は、まだまだ何も分かっていなかったですが、鹿賀さんからは『こうした方がいい』といった言葉をいただいたことはなく、それがすごく印象的でした。自分のやるべきことをただひたすらやっていらっしゃるのを見て、舞台ってこうやって作っていくんだなと気づくきっかけにもなりました」
―このインタビューでもお二人のやりとりからとても仲が良いのだなと感じていますが、改めて、小説家をこのお二人のダブルキャストで演じるということについては、どんな思いがありますか?
平方さん「最高以外の何ものでもないです」
上原さん「こんなに心強いダブルキャストはいませんよ」
―お二人は、2011年に上演されたミュージカル『ロミオ&ジュリエット』でもティボルト役をダブルキャストで演じられていますよね。
平方さん「『ロミオ&ジュリエット』は、僕のミュージカルデビュー作だったんですが、その時から理生は優しくてものすごく大人で冷静でした。その後、別の作品に出演した時に、『なんで理生がいないんだろう』ってずっと思っていたほど(笑)、僕の中で大きな存在でした。ダブルキャストの相手によって、稽古場での居方や空気感が変わってくるんですよ。ここまでずっと一緒にいた人というのは他にいないんじゃないかなというくらい、一緒にいたもんね」
上原さん「僕も、ミュージカルデビューしたばかりでまだ分からないことだらけだったからね。だから、本当に一緒に頑張った。戦友という感じです」
平方さん「そう言ってくれるけど、理生は何でもできるんですよ。小池先生(※ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』の演出を担当した小池修一郎さん)の指示もすぐに理解できて…。僕は、『とにかく数字が弱い』って小池先生に言われてたよね(笑)」
上原さん「小池先生は、ひとつの絵画を作るようにビジョンが明確にある方なので、シーンごとに立つ場所を数字で言うんですよ。僕も初めてだったから、一生懸命に書き留めていたんだけど、ある時、小池先生が『元基、お前何番だ?』って(笑)」
平方さん「もう台本に(書き留めた)数字が並びすぎていて、『どの番号か分からないです』って(笑)」
上原さん「初めてだったんだから、そうなるよね」
平方さん「でも、理生はちゃんと正しい番号に立っていたし、お芝居もしっかりしてたんですよ。僕は番号に必死だし、セリフも出てこないし、大変だった(笑)。そんな中でも、理生はいつも笑顔で…荒れ狂っているところは見たことない」
上原さん「確かにげんちゃんの前ではないけど、荒れ狂うこともあるよ(笑)。最近はだいぶ落ち着いたけど、若い頃はあった。20代の頃なんて考え方も若いし、正しいことはこうだと言いたい気持ちもあったから。ただ、それはもう卒業しました。おじさんですから」
平方さん「僕は今でもありますけどね(笑)。もうやだーって(笑)」
―ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』の時は、お二人で役についてや作品について話し合うことも多かったんですか?
上原さん「デビューしたての頃だったからね」
平方さん「だから、結構話し合っていたと思います。今だから言いますが、実は僕、理生の台本を勝手に読んでたんですよ(笑)。本当は絶対にやってはいけないことですが、理生が稽古している時に勝手にめくって見ていました(笑)」
上原さん「変なこと書いてなかった(笑)?」
平方さん「落書きもなく、すごくちゃんとしてた。僕は落書きだらけだったから(笑)」
―その後、数々の作品にご出演され、経験を積まれた今は、そうした話し合いも減っていくんでしょうか?
上原さん「どうでしょうね。でも、それぞれが経験を積んだことで見えてくる景色があって、気づくものもいっぱいあるだろうとは思います」
平方さん「あの頃は、藁にもすがる思いで何でもやって、それを固めて本番に向けていったけど、今は『これもあるよね』『あれもあるよね』って二人で話し合った時にいろいろな選択肢が出てくると思います。それを全部使って演じるのもいいし、今の僕の役作りには必要ないなと精査してもいい。お互いに取るものを取っていけば、それぞれらしい小説家になるんじゃないかなと思います。そう考えると、以前に比べたら、それほど話し合いは必要ではないのかもしれない」
上原さん「自分たちでノウハウを培ってきたからこそね。大人になったね、二人とも(笑)」
―改めて、この「生きる」という作品の魅力を教えてください!!
上原さん「この作品は、戦後、日本が立ち上がっていこうとしている混迷の時代が舞台です。物質的にどんどん豊かになっていく中で、本当に大事にしなければいけないものとは何だろうということを描いた作品でもあると思います。同じように今この現代も非常に混迷してる世の中です。今、この作品を上演することで、何をもってこの時代を自分たちは生きていくのかを、ストレートに投げかけてくれるのではないかなと感じています」
平方さん「理生が言ったように、ここで描かれているのは、混迷、混沌とした時代で、それは今も変わらないとは思います。ただ、圧倒的に違うのは情報が多すぎること。(劇中で)勘治は公園を作ると言い出しますが、その工程も今とは全く違います。携帯もない時代なので、窓口に行って、一つひとつ説明をしていかなければならない。それだけでなく、息子との関係、とよという女性との関係性も描かれているので、人間同士がぶつかり合うことの大事さを感じられるのではないかと思います。もしかしたら、今の方にはトゥーマッチに感じられるかもしれませんが、そうやって感情をぶつけ合って伝える姿を見て『生きるってこういうことだな』と僕は思いました。時代が変わっても根底にあるものは変わらないと思います。それを描いているのがこの作品の魅力的なところなんじゃないかなと思います」
―ありがとうございました!! では、最後に「生きる」というタイトルにちなんで、お二人が生きていると実感できる瞬間を教えてください。
平方さん「寝て起きたら『俺、今、生きてる』と思う(笑)。『また朝が来た。すごいな』って(笑)。それから、舞台に上がっている時は、たった3時間の間に、喜怒哀楽がギュッと詰まっていたり、はたまたその時間で一生や何年間を生きていくのですが、それはものすごく疲れることだけれど、生きているということでもあると思います。昔は、“役を生きる”ということが分かるようで分からなかったけれど、やり続けたことでその感覚も芽生え始めたんですよ。遅いよと言われそうですが、自分じゃないその感覚や激動の3時間を過ごせることは、生きていると実感できる時間になっています」
上原さん「僕は、舞台の上に立って芝居をしたり、歌を歌ったりすること。そして、それを誰かが喜んでくれていることで、生きてるなと感じます。自分の役目を今、きちんと努めて生きてるんだなと思います」
▶︎平方元基さん&上原理生さんのファッション事情◀︎
―今日のお衣裳のポイントは?
平方さん「楽なところが気に入っています。ここまでシンプルな衣裳を着ることはあまりないので、シルエットもゆったりしているところがポイントです」
上原さん「スタイリストさんと相談して、きっと読者の皆さんがこの記事を読む頃には暑い時期になっているだろうと思い、季節に合わせて衣裳を用意してもらいました。このままバカンスに行ける気がします(笑)。今日つけているアクセサリーは自前です」
平方さん「ふと気になったんだけど、服ってお店に買いに行ってる?」
上原さん「ポチる」
平方さん「実際の店舗に行って、見ることはあまりないんだ?」
上原さん「気に入るものがないんだよね」
平方さん「新しい選択肢だね。僕は、お店で見ると緊張しちゃって、苦手なんだよね」
上原さん「分かる分かる。静かに見たい時もあるよね。僕は、流行よりも似合うものを選びたいから、お店で探すよりもネットで探したほうがいいなと思って」
平方さん「僕は普段は何でもいい。こだわりがないことがこだわりかも。だって、服を買いに行くのも苦手なくらいだから。こうした場だと、きちんとしたお着物を用意してくれるので心配ないですが、寝起きのジャージのまま稽古場に行ってしまうこともあります(笑)」
―この夏に挑戦したいファッションはありますか?
平方さん「メンズが短パンを履く場合、どんなふうにしたらいいのか知りたいです。女子から見てカッコよく見えるのは、どんなものなんですかね?暑いから挑戦したいので、教えてください(笑)」
―最近の休日の過ごし方は?
上原さん「ちょうどこの取材の少し前まで舞台に出演していたのですが、その時の休演日は、家でぐったりしていることが多かったですね。ボーッとしてる。気づくと何時間も経ってました」
―お二人から見た“輝いている人”って、どんな人ですか?
平方さん「自分の機嫌を自分で取れる人。僕はすぐに“ギャー”ってなっちゃうタイプなので、自分の機嫌を自分で取れる人はすごく大人だなと思います」
―“ギャー”ってなったときは、どうやって落ち着くんですか?
平方さん「やり尽くして、疲れたなと思ったら、自然に落ち着きます(笑)」
上原さん「犬みたいだね(笑)。僕が思う輝いている人は、あるがままの自分でいる人です。無理をしてない。そういう人になりたいです」
平方さん「そうだね。なりたい。無理しなくちゃいけない時もあるのかなと思っていたけど、そのままでいいんだよね。大きく見せる必要もないし、できないものはできない。だから、頑張るんです」
【profile】
平方元基/Genki Hirakata
1985年12月1日生まれ。福岡県出身。
2008年日本テレビドラマ『スクラップティーチャー』でデビュー。
2011年ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』ティボルト役でミュージカルデビュー。主な出演作は、ミュージカル『エリザベート』、ミュージカル『アリス・イン・ワンダーランド』(2014年)、ミュージカル『サンセット大通り』(2015年)、ミュージカル『ローマの休日』(2020年)、などに出演。2021年に上演の『メリリー・ウィー・ロール・アロング』ではフランク役で主演を務める。
■公式ホームページ
https://fc.horipro.jp/genkigumi/
■公式Twitter
https://twitter.com/hirakatagenki
上原理生/Rio Uehara
1986年10月29日生まれ。埼玉県出身。
東京藝術大学声楽科卒業。卒業時に同声会賞・アカンサス音楽賞受賞。
在学中より「ドン・ジョヴァンニ」、「ジャンニ・スキッキ」、「こうもり」等、オペラ、オペレッタで舞台を踏む。2011年 オーディションにてミュージカル『レ・ミゼラブル』(オリジナル版) のアンジョルラス役を射止め、鮮烈なデビューを飾る。以降、『ロミオ&ジュリエット』、『ミス・サイゴン』、『1789 -バスティーユの恋人たち- 』、『ピアフ』、『マリー・アントワネット』 などにプリンシパルとして出演し、研鑽を積む。2019年『レ・ミゼラブル』からはジャベール役を務める。また、自身の歌い手活動として、クラシックコンサートを開催するなど声楽家としての一面も持ち合わせ、歌のジャンルを越えた架け橋のような存在を目指し現在活動中。
■公式ホームページ
https://www.theatre-de-rio.com/
■公式Instagram
https://www.instagram.com/rio_uehara_official/
■公式Twitter
https://twitter.com/rio_uehara_1029
photo:Tsubasa Tsutsui/styling: Hironori Yagi(平方さん) Aika Okamoto(上原さん)/hair&make-up: Machiko(平方さん) yuto (上原さん)/interview&text:Maki Shimada
costume(平方さん):Jacket,Shirt,Pants: VU(ヴウ)/お問い合わせ:JOYEUX(ジョワイユ)港区南青山6-6-22 Luna Rossa 南青山3F tel:03-4361-4464
【公演概要】
■タイトル
Daiwa House presentsミュージカル『生きる』
■日程・会場
東京公演:2023年9月7日(木)~9月24日(日) 新国立劇場 中劇場
大阪公演:2023年9月29日(金)~10月1日(日) 梅田芸術劇場メインホール
■原作 黒澤明 監督作品「生きる」(脚本:黒澤明、橋本忍、小國英雄)
■作曲&編曲 ジェイソン・ハウランド
■脚本&歌詞 高橋知伽江
■演出 宮本亞門
■出演
市村正親/鹿賀丈史 村井良大 平方元基/上原理生 高野菜々(音楽座ミュージカル) 実咲凜音 福井晶一 鶴見辰吾 ほか
■公式ホームページ
https://horipro-stage.jp/stage/ikiru2023/
(2023,06,23)
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