ミュージカル、古典、翻訳劇など、数多くの話題作に出演し、存在感を放つ麻実れいさん。2月に上演される『インヘリタンス‐継承‐』では、クライマックスで登場するマーガレット役を演じます。
ローレンス・オリヴィエ賞やトニー賞などを受賞し、ブロードウェイ・ウエストエンドを感動に包んだ本作は、前後篇6時間半でつづる愛の物語。2015~18年のニューヨークを舞台に、1980年台代のエイズ流行初期を知る60代と若い30代・20代の3世代のゲイ・コミュニティの人々の愛情、人生、尊厳やHIVをめぐる戦いを描いた作品です。
今回は、麻実さんに本作への思いや役柄について、そしてNorieM恒例のファッションについてもお伺いしました!!
―この作品に出演が決まった時のお気持ちを聞かせてください。
(演出の)熊林(弘高)さんとはTPT(シアタープロジェクト東京)時代からお付き合いがある仲間なのですが、そんな彼からこの作品を提案されて、その時までこの作品のことを知らなかったんです。それで、その後にブロードウェイ公演の動画を観させていただいて、この作品は今、必要な作品だと感じましたし、私が演じるマーガレットにこの物語のテーマが集約されているところがあるのではないかという感覚があったので、とても大事な役割をいただいたと改めて思いました。人間に一番大切な人間の尊厳が集約されている作品でしたので、即答でお受けしました。世界的にも大変評判になっている作品で、日本でも演出をなさりたい方がたくさんいらっしゃったというお話をお伺いして、改めてすごい作品だと。
―麻実さんが演じるマーガレットという役柄については、どのように捉えていますか?
マーガレットはごく普通の女性だと思います。台本には明確に書かれてはいませんが、(マーガレットの息子の)マイケルは私生児なんだろうと思います。彼が生まれた時、マーガレットは彼に触れて、その力強さに初めて幸せをもらった。ごく普通の家族愛を持っていて、息子に対して反発したり、共感したりしながら、息子を通してゲイに対して徐々に理解を深めていきます。しかも当時は、ゲイ=エイズの時代でしたから、エイズに対する怖さゆえに、秘めすぎてしまったところもある。結局、マイケルと別れて再会した日が、彼が亡くなる日なんですよ。それがもう本当に可哀想で、台本を読んだときに涙が止まらなかったです。そうした自分の感情を大事に演じたいと思いますし、そうした息子を持った女性の強さや、一方でそれに伴う儚さ、弱さをお客さまの前に提示できたらと思っています。
―麻実さんが演じるマーガレットは、3分もの長ゼリフがあると聞いています。
私は、長ゼリフがある役が多いんですよ。台本9ページくらい自分のセリフということもあるんですが、今回は(麻実さんのセリフの合間に)相手のセリフも入るのでそれほど長ゼリフという感じはしていません。それに、難しい言葉ではなく自分の生活範囲内の言葉で親子関係についてや周りの人たちの話をするので、それほど長くは感じないのですが、でも短くはないですね(苦笑)。マーガレットは、その長ゼリフを通して、物語を終幕まで持っていく重要な役だと思うので、責任を感じています。
―そしてこの作品では、エイズが大きなキーワードとして描かれていますが、コロナ禍を過ごしてきた私たちにとって、とても身近なテーマだとも感じました。
コロナ禍も今、やっと落ち着いてきていますが、本当に考えたこともなかった状況でしたよね。当時のエイズも取り巻く状況がとてもひどいものでした。この作品の2幕で描かれているのは、わずか15年ほど前の話なんですよ。エイズになっても隠さざるを得ない時代だった。絶対に人に知られてはいけないと、そんな怖さもあった時代を描いている物語です。
―エイズとコロナはもちろん違うものだとは思いますが、コロナ禍を経験したからこそ、観る人も共感できるところが多いのではないでしょうか。
それに、人は、自分がどうやって生まれてくるか選べませんよね。自分はノーマル、自分はマイノリティということは選べないんです。今は多様性が認められる時代になってきましたが、今の時代だからこそ、上演できるのかもしれないと思います。
―熊林さんの演出に対しては、どんな楽しみがありますか?
彼と初めてご一緒したのは2010年の『おそるべき親たち』で、彼が独り立ちした作品です。彼とは当時からの仲間。お互いに自分の身内のような感覚があるから、好きなことを言えるんですよ。『おそるべき親たち』の時も、感じたことを素直に口に出しながら作品を作り上げていきました。一つの作品を作り上げていく場で出会っているものですから、もう十分、大きくなられていますが、それでも、やっぱり彼が愛おしいし、彼の成功を願っていました。だから、今回も私なりに頑張りたいと思っています。
―改めて公演への意気込みをお願いします。
今だからこそ上演できる作品だと思います。今、私はある意味では、地球全体が傷んでしまって壊れ始めてしまっていると感じています。その中で、人間たちは頑張って生きていかなければいけなくて、争いをしている場合ではない。争いの悲惨さは十分学んでいるはずなのに、どうしてまた始めるのか。そんな状況の現在、この作品が幕を開けます。人間として生きる価値、尊厳、可能性、全てが表現されている作品です。失われた大切な何かをたくさん感じていただけると思います。難しいのではないかと思わずに、とにかく飛び込んで客席に座っていただきたいなと願っています。
▶︎麻実れいさんのファッション事情◀︎
―本日のお衣裳のポイントを教えてください。
今日は、『インヘリタンス』の製作発表という場にふさわしい衣裳をと思い、黒いシックな衣裳を選びました。
―普段はどんなファッションがお好きですか?
私は、宝塚の男役時代が長かったものですから、現役の時はスカートは1枚も持っていなかったんですよ。退団後はもちろんTPOに合わせて、女性らしい服装もするようになりましたが、失礼のないようにTPOだけ考えればあとは自由でいいと思っているので、その時々で素敵なものを見つけて着ています。ドレスアップする場では、タキシードスーツを着る機会が多いのですが、宝塚は独特なタキシードなんですよ。ご存知かと思いますが、女っぽさを取り入れた、ダボっとしたパンツのタキシードだったり、ノースリーブにアレンジしたものだったり。そうしたものを着るとどこか安心します(笑)。
普段着は、お店で見て素敵だなと思えば、何でも買いますが、買っちゃうとどこかホッとしてしまって、タンスの肥やしになりがちなんです。最近は反省して着るようにはしているのですが、仕事が忙しいので、稽古場と自宅、劇場と自宅の往復ばかりでおしゃれする機会もあまりない。時間を見つけておしゃれしたいと、この頃になってようやく思うようになりました。
―お洋服を選ぶときのポイントは?
黒やグレーなどの無彩色が多いです。パンツスタイルが多いですが、その中でも女性らしいラインのものを選ぶようにしています。ボーイッシュの中に女っぽさが垣間見えるお洋服が好きですね。
―ありがとうございました!! 最後に、長きにわたってご活躍をされている麻実さんが輝き続ける秘訣を教えてください。
そう言っていただけるのはとても嬉しいです。まず、今はまだ現役なので、やはり基礎体力は維持しなくてはいけない。そのために、朝は必ずストレッチをして、そして発声。それから、やはり人間は歩かないとダメなので、ウォーキング。これだけはずっと続けています。これを続けているから、今、元気なのかなとも思いますし、ハードな舞台を乗り越えるための体力も、この日々の繰り返しでついているように思います。
【profile】
麻実れい/Rei Asami
3月11日生まれ、東京都出身。
1970年、宝塚歌劇団入団。『ハロー・タカラヅカ』で初舞台 を踏み、雪組男役トップスターとして活躍し、85年に宝塚歌劇団を退団。以降、ミュージカ ル、古典、翻訳劇、など多くの話題作や海外公演にも多数出演。他、ディナーショーやリサイ タルなどでも活躍している。06年に紫綬褒章、20年に旭日小綬章を受章。2023年3月1 日より、日本芸術院の会員となる。その他、数多くの演劇賞を受賞しており、11年には『冬の ライオン』『おそるべき親たち』で第18回読売演劇大賞 最優秀女優賞を受賞している。近年 の主な出演作に、【映画】『十五才-学校IV-』(2000)、【ドラマ】『隠蔽捜査』ナレーション (14・TBS)、『火怨・北の英雄 アテルイ伝』(13・NHK)、【舞台】ミュージカル『アナスタシア』『精霊の守り人』 (2023)、『バイオーム』『INTO THE WOODS』声の出演(2022)、『炎 アンサンディ』(2014,2017)、『ガラスの動物園』『森 フォレ』 『ドクター・ブルー~いのちの距離~』(21)、『MISHIMA 班女』『アナスタシア』(20)、『ドクタ ー・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~』『ベルサイユのばら45 ~45年の軌跡、そし て未来へ~』『罪と罰』(19)、『アザー・デザート・シティーズ』(17)、『夜への長い旅路』(15)な どがある。
photo:Hirofumi Miyata/interview&text:Maki Shimada
【STORY】
[前篇] エリック(福士誠治)と劇作家のトビー(田中俊介)、初老の不動産王ヘンリー(山路和弘)とそのパートナーの ウォルター (篠井英介)の2組のカップルを中心に物語は展開する。ウォルターは「田舎の家をエリックに託す」と遺言し て病死する。トビーの自伝的小説がヒットしてブロードウェイで上演されることになるが、その主役に抜擢された美しい 青年アダム(新原泰佑)の出現により、エリックとトビーの仲は破たんする。しかしトビーはアダムにふられ、彼にそっくりの レオ(新原泰佑 二役)を恋人にする。一方、リベラルと保守の両極のようなエリックとヘンリーが、ふとしたことから心を通 わせる。エリックは、ウォルターの遺言の「田舎の家」が、エイズで死期の近い男たちの看取りの家となっていることを知る。
[後篇]
エリックとヘンリーが結婚することになり、ジャスパー(柾木玲弥)ら古い友人たちとの間に溝ができる。結婚式に、トビー がレオを伴って現れる。レオを見て顔色を変えるヘンリー。トビーは式をぶち壊して失踪する。トビーに捨てられHIVに 感染し行き場をなくしていたレオをアダムとエリックが救う。レオを「田舎の家」に連れて行くと、そこには男たちに寄り添い 続けたマーガレット(麻実れい)がいて、この家で起ったことを語り始める…。ウォルターの遺志を継ぐ決心をするエリック。 レオは彼らの物語を書き残していく。
【公演概要】
■タイトル
舞台『インヘリタンス‐継承‐』
■日程・会場
東京公演:2024年2月11日(日・祝)~2月24日(土) 東京芸術劇場 プレイハウス
大阪公演:2024年3月2日(土) 森ノ宮ピロティホール
北九州公演:2024年3月9日(土) J:COM北九州芸術劇場 中劇場
■作 マシュー・ロペス
■演出 熊林弘高
■出演
福士誠司 田中俊介 新原泰佑
柾木玲弥 百瀬朔 野村祐希 佐藤峻輔
久具巨林 山本直寛 山森大輔 岩瀬亮
篠井英介 山路和弘 麻実れい(後篇のみ)
■公式ホームページ
https://www.geigeki.jp/performance/theater350/
(2024,01,26)
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▶️麻実れいさんの撮影アザーカットをNorieM shop&magazineのInstagramで公開予定です!!
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