KAAT 神奈川芸術劇場メインシーズン「某(なにがし)」のオープニング作品として、9月16日より『リア王の悲劇』が上演されます。「リア王」には、クォート版『リア王の物語』とフォーリオ版(シェイクスピアによる改訂版)『リア王の悲劇』があり、この折衷版が『リア王』として上演され続けてきました。今回、河合祥一郎さんによる新訳のフォーリオ版が、日本で初の舞台化となり、演出はいま最も注目される演出家・藤田俊太郎さんが手掛けます。初のシェイクスピア作品へ挑む藤田俊太郎さんへ作品への思い、さらにはファッションについてお話を聞きました!!

 

―『リア王の悲劇』でKAAT神奈川芸術劇場での初演出を手掛けられます。ホール内特設会場とありますが、どのような演出を考えていらっしゃいますか?

KAAT神奈川芸術劇場が開館して14年、私はこれまでにこの劇場で多くの舞台を観劇する機会に恵まれました。常に挑戦する気持ちを忘れず、同時に、子供から大人まで広い世代の方に、演劇の裾野を広げる活動を継続されていると作品から感じています。初代芸術監督の宮本亞門さんから白井晃さん、長塚圭史さん。常に普遍的でありながらアバンギャルドな作品、野心作を作ってこられた歴史に対して敬意を持っておりますし、今回、声をかけていただけたことはとても嬉しかったです。いろいろな演目の候補がある中で、『リア王の悲劇』は、メインシーズン「某(なにがし)」のテーマにぴったりだと思いました。劇場のホールは、舞台の機構の自由度が高く、高低差も奈落も使って演劇作品を構築することができるので、無限大の可能性を持っています。第4の壁と言われている客席と舞台上の境界なく、客席と舞台上が一体となり、古典作品を今の物語として感じていただけるための設えがホール内特設会場です。

 

ー藤田さんが『リア王の悲劇』を長塚さんへ提案した1番の理由はなんですか?
私自身、シェイクスピアの作品に挑戦したいと長年思ってきました。私が考えるシェイクスピアの自由さと、長塚芸術監督や劇場の皆さんが考えられている芝居の自由さが交錯し、素晴らしい創作に繋がるのではないかと思いました。長塚芸術監督から「ぜひ演出したいものを」とおっしゃっていただいたので、シーズンテーマを大事にして、監督の胸に飛び込ませていただきました。

 

ーシェイクスピア作品の中から『リア王の悲劇』を選ばれたのはなぜですか?

この作品の持つ普遍性が、現代に通じるテーマを多分に持っているのでは、と感じたからです。リア王と個性豊かな登場人物の生き様に非常に惹かれておりました。特にフォーリオ版「リア王の悲劇」は上演を重ねながらシェイクスピア自身が書き替えていったバージョンです。河合祥一郎さんの新訳に出会い、感じる世界が一気に広がりました。人間ドラマがより克明に、事細かく書かれているのが魅力的で、人間の喜びだけではなく、悲しみ、喜怒哀楽が戯曲の中に豊かに表現されています。演劇作品としてだけでなく、文学としても最高峰の一つではないかと考え、憧れていました。

 

ー今回、リア王を木場勝己さんが演じます。藤田さんからご覧になった木場さんの役者としての魅力はどんなところだと感じていますか?


木場さんから発せられる日本語の言葉です。客席に言葉が届くというのは、当たり前のようですが、努力をし、年を重ね、経験を重ねなければ演劇の言葉として届けることはできないんだということをまだ私が若いスタッフだった時に、木場さんから学びました。

 

ーもう全幅の信頼を置いてらっしゃる感じですね。

はい。木場さんとリア役でお仕事ご一緒することは念願でした。先ほどリアの普遍性に関してお話ししましたが、もう一つ、木場さんが体現されている、リアを通した世代間の断絶や融和もこの作品の魅力だと思います。次の世代はリアの言葉をどう引き継ぐのか、もしくは引き継げないのか。自分の娘たちに財産分与をしたいリアがいて、一方では武人としてこの国を守り続けていたグロスターというリアに近い世代の人物がいます。今までの価値観を持つ一番上の世代ですね。

そして、次に中堅世代の王に仕えるケント伯、長女ゴネリル、次女リーガン、それぞれの夫オールバニ公爵、コーンウォール公爵。ゴネリルに使えるオズワルド。その次に若い世代の三女コーディーリア、リアの道化。グロスターの嫡子エドガー、私生児エドマンドがいます。少し自分の話をすると、私もかつては若いエドマンドの世代だったのですが、仕事をしてきて経験を積み、この作品のケントに代表される中堅世代としてこの作品を見た時、特にリアの成長、リアの生き様どうやって語っていくのかということが大事だと考えるようになりました。

歴史は続く。先人たちの言葉は宝だと思います。私も年齢を重ねて、いよいよシェイクスピア劇に挑戦できるというチャンスをいただけるようになって、今このタイミングで演出するとなった時に全く違うテーマが見えてきました。
19名の本当に素晴らしい役者が集いました。木場さんには全幅の信頼を置き、現場ではとても活発な話し合い、クリエイティブなやり取りがありました。

 

ーこれまで多くの作品の演出をされてきた中で、大切にしていることはどんなことでしょうか?


やはり全ての答えは戯曲にあると思うので、とにかく台本を読むことを大事にしています。劇作の言葉、翻訳の言葉を通して語られるテーマを、そして、稽古場で公演に向かっていく役者の身体、言葉を通して生々しく発せられる感情を大事にしています。もちろん作品への思い入れはありますが、私個人の思い入れよりも、どうやったら戯曲に書かれていることの深層に辿り着けるかを重視します。そして、コミュニケーション。稽古に向けて準備を進め、カンパニーの皆様、プランナー、スタッフに作品を演出家としてどう読んで、舞台を構成・構築したいかを明確な言葉で語ること、話し合うこと、対話で生まれたものを大事にしています。

 

ー個人の思いや感情を入れたいなと感じる時もあったのでしょうか?

演出家の仕事としてはないと思います。かつて自分が演劇に携わる前、絵を書いたり、写真を撮ったり、個人で創作する時はどうやって思いを投企できるかを考えていました。演劇に向き合う時は、集団創作で、作品ありき。もしかすると演劇に出会って、物を創ること、取り組みへの思いは180度変わったかもしれません。

 

ー演出家として多くの役者の皆さんと接していく上で意識していること、大切にしていること、気をつけていることはどんなことですか?

なかなか実現できない時もあるのですが、大切にして、いつも目指していくのが稽古の時間をきちんと決めるということです。これはロンドンのオフウエストエンドで演出を担わせていただいた経験から学んだことです。数ヶ月渡英、滞在し創ったミュージカル『VIOLET』(企画・制作・主催:梅田芸術劇場)の現場は稽古時間が厳しく決められていました。稽古開始当初はもう少し稽古をしたいのにとか、戸惑いもあったのですが、後々はとても理にかなっていると感じました。ギャランティを時間で換算しその枠組みの中でどうやって創作していくのかは、非常に大事だなと思ったからです。

 

ー最後に本作に対する意気込みと読者の皆さんへメッセージをお願いします。

シェイクスピア劇というと難しかったり、わかりにくいと感じるお客さまもいらっしゃると思うのですが、「リア王の悲劇」は全くそんなことがないです。普遍的な物語で、面白くて、喜劇的でもあります。人間の喜怒哀楽、人間の有り様を描いた作品で、全ての登場人物たちが世界の中で抗いながら、それでも魅力的に生きている姿をぜひご覧になっていただき、劇場で大いに笑って、大いに泣いていただけたらと思います。
9月から始まる 「某(なにがし)」というシーズンの1演目を担わせていただいていますけれども、この劇場の自由さと懐の広さ、演劇はとても楽しいんだという魅力を存分に感じてください。   小学生のお客さまから18歳以下のお子さままでが無料でご招待、同伴の保護者の方は半額で、ご覧になれます。KAAT神奈川芸術劇場だけの上演です、興味を持ってくださる方は、ぜひ劇場へ足を運んでいただければと思います。お待ちしております。


▶︎藤田俊太郎さんのファッション事情
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ー今日のお衣装のお気に入りポイントを教えてください。


「TAAKK(ターク)」というブランドで、数年に渡りパリコレでの発表を行っている、森川拓野さんのブランドです。実は森川さんとは秋田の高校時代からの付き合いで、とても大事な友人です。ファッションへのアプローチが独特で美しく、魅力的。素材と素材をどう組み合わせるか、異素材と思える素材を組み合わせたり、新しい価値観を感じさせる服作りに取り組んでいます。

服のマテリアルの多くは決まっていて、私にはとても制約があると思えるのですが、彼はそれを逆手にとって制約の中でその枠組みを突破するような挑戦をしているのが格好いいなと思います。

今日着ているパンツも素材が緩やかに変わっていたりとか。新しい価値観を構築するというのは、私が演劇で目指していることでもあります。TAAKKの話でもう一つ素晴らしいと思うのは、森川さんが自分のチームを本当に大事にされていること。一緒に働いている皆さんとお会いしたことがあるのですが、とても素敵なチームです。彼からは学ぶことがたくさんあります。

 

ー藤田さんご自身が輝き続けるためにしてることは?


絵本ロックバンド、にじいろばにーの活動です。仲間が集まって、音楽活動を続けています。近年は子供向けのオリジナル音楽劇を創って、呼んでいただければどこでも行きます。メンバーは私も含めて3人。ただ3人だけでは活動は当然できなくて、いろいろな方の協力があり、毎回小さな一歩ですが、幼稚園やお寺、洋服屋さんで30分から40分、長いときは1時間の劇を上演する機会をシーズン毎にいただいています。

子供は世界一厳しい観客。 1分前に大笑いした1歳のみんなが、1分後にはもう飽きているので、毎回大変な勝負です。子供にどうやって物語を伝えるのかということをメンバーと話して、実践していく時間が非常に楽しいですね。メンバーとは出会って15年近くになりますし、付き合いも長いですからね。そうやって作ってきた関係、皆の輝きが私の力の源です。

 

ー藤田さんにとっての休日とは?
最近は、普段の生活の中に休みや、切り替わってる時間があると感じてます。質問に対する 答えとは少し違うかもしれないですが、演劇の現場にいる時間が長いと、現場ではない時間ってやはり面白いんですよね。映画鑑賞や、美術館に行ったり、結局20年続けているサイクルはどんな時、どんな場所でも変わらないんだなと思います。そのサイクルの中で演劇に還元できる力を充電することが休日であり、休みなのだと感じてます。

 

【profile】

藤田俊太郎/Shuntaro Fujita
1980年4月24日生まれ。秋田県出身。
東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業。演出作に『The Beautiful Game』『美女音楽劇人魚姫』『手紙』『ジャージー・ボーイズ』『sound theaterVI,Ⅶ,2023』『Take Me Out』『ダニーと紺碧の海』『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』『ミュージカル ピーターパン』『LOVE LETTERS』『VIOLET』(英国版/日本版)「絢爛豪華 祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』」『NINE』『東京ゴッドファーザーズ』『ミネオラ・ツインズ』『ラビット・ホール』『ヴィクトリア』『ラグタイム』『東京ローズ』。読売演劇大賞第22回優秀演出家賞・杉村春子賞/第24回最優秀作品賞・優秀演出家賞/第28回優秀作品賞・最優秀演出家賞/31回大賞・優秀作品賞・最優秀演出家賞、第42回菊田一夫演劇賞、第42回松尾芸能賞優秀賞受賞。あきた芸術劇場ミルハスアドバイザー。
■公式ホームページ
http://www.my-pro.co.jp/aa/body/fujita.html

photo:Tsubasa Tsutsui/interview:Akiko Yamashita


【公演概要】
■タイトル
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『リア王の悲劇』
■日程・会場
2024年9月16日(月・祝)~2024年10月3日(木) KAAT神奈川芸術劇場 <ホール内特設会場>
■作:W.シェイクスピア
■翻訳:河合祥一郎(『新訳 リア王の悲劇』(角川文庫))
■演出:藤田俊太郎
■出演:
木場勝己/水夏希 森尾舞 土井ケイト 石母田史朗 章平/伊原剛志 ほか
■公式ホームページ
https://www.kaat.jp/d/king_lear

(2024,09,13)

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