山西竜矢さんが脚本・演出を務める演劇ユニット「ピンク・リバティ」の最新作『点滅する女』が、2023年6月14日(水)から上演されます。本作は、ある一家のもとに亡くなった長女が別人の体を借りて帰ってくるという、一風変わった設定で送る家族にまつわる物語。田舎町で暮らす一家と、彼らを取り巻く人々の姿がブラック・ユーモアを交えて軽妙に描かれます。W主演を務める森田想さんと岡本夏美さん、そして山西さんに本作の見どころをお伺いしました!!
―まずは、山西さんが本作を制作するに至った経緯や、作品に込めた想いをお聞かせください。
山西さん「シンプルに、最近親と接することが増えたことで家族の話を作ってみたいと思ったのがきっかけです。ピンク・リバティは自分の企画なので、真っ直ぐ今の興味を作品にしてみようと思いました」
―リアルに描かれた登場人物たちの日常生活の中に、“幽霊”という奇妙な世界が混在していく本作は、まさに山西さんらしい世界観だと感じましたが、そうした発想はどこから生まれてくるのですか?
山西さん「作中に、観る人の“フック”となるようなものが欲しいという思いが根底にあります。単純な家族の話でも面白い物語は作れるかもしれませんが、そこにプラスされたものに僕自身は惹かれることが多いんです。家族の話自体は、よくある物語だと思いますが、そこに亡くなった長女の幽霊に取り憑かれた女性、という奇妙なキャラクターが現れることで、また違った見え方になるんじゃないかなと」
―なるほど。では、森田さんはご出演が決まった時はどんなお気持ちでしたか?
森田さん「最初にあらすじとプロットをいただいたのですが、それがとても面白かったので、ワクワクしました。私は、(この作品が)初舞台になるので、初めてにしてはカロリーオーバーすぎない作品で、今の自分が持っているものに付け加える努力をすれば演じられるんではないかという判断で、ぜひやらせていただこうと思いました」
―初舞台に山西さんの作品を選んだことには、どんな想いがありましたか?
森田さん「それについては、特にこだわっていたわけではないんです。自分に向いてる矢印だったり、自分が今置かれている状況を客観視した時に、ぜひ、やらせていただきたいな、と。以前から舞台に出演したいと思っていたので、偉そうな言い方ですがタイミングとしてとてもよかったのかなと思います」
―岡本さんはいかがですか?
岡本さん「ピンク・リバティの作品、山西さんとぜひご一緒させていただきたいと思っていたので、お話をいただいた時も、すぐにお返事をさせていただいて今に至っています。私も舞台出演がそれほど多いわけではないですが、『春のめざめ』という舞台に出演してからは“演劇に携わりたい”という思いが芽生えて、コンスタントに舞台に出演させて頂いています。なぜか、舞台だと悲惨な役が多いんです。だからこそ、変な力を込めずにチャレンジできるのかなと思っています。今回もいろいろと難しい役ですが、肩の力を抜いて挑戦したいと思います」
―山西さんとご一緒したいというのは、何か山西さんの作品をご覧になって感じたのですか?
岡本さん「実は、同じ映画に出演したことがあるんです。といっても、同じ画面に出ていたわけではなく、お芝居で絡んだわけではないのですが」
山西さん「そうだった(笑)。その時は変な役を僕が演じていて…」
岡本さん「『賭ケグルイ』という作品で、(山西は)高性能なロボットの役を演じていらっしゃいましたよね?その後に、山西さんからワークショップにお声がけしていただいたんです。それが4年くらい前かな。それでワークショップに参加させていただいたのですが、その時の課題台本も好みにぴったりでしたし、山西さんの演出との“相性”がすごくよかったんです。演出の方によってはどうしたらいいのか分からないということもあるんですが、山西さんのワークショップは、自分が面白いと思うことと一致したというのが心に残っていて、それでいつか作品でもご一緒したいと思っていました」
山西さん「森田さんも別のワークショップに来ていただいているんですよ。僕は、できる限り、実際にお会いした方をキャスティングしたいというタイプなんです。その上で、お互いに一緒に作品を作れそうだなという感覚があった人に出演していただいていることが多いと思います」
―山西さんはそのワークショップを通して、お二人に何か感じることがあって、今回のオファーへと繋がったんですね。
山西さん「お二人とも、とても素敵でした。そもそも、いいなと思う方にお声かけして来ていただいているワークショップなので、当然のことではあるのですが。僕としてもこういう方、能力や特性がある方がいいというのが作品ごとに明確にあるので、それにハマる素敵なお二人だなと思ってお願いしました」
―森田さんは父、母、兄とともに実家の工務店で暮らす田村鈴子、岡本さんは5年前に亡くなった長女・千鶴を演じますが、今、演じる上で特に意識されていることはどんなことですか?
森田さん「今作だからということではなく、普段、演技をする上で気をつけていることですが、自分の演技をコレだと決めないで、相手に返答していくスタイルでお芝居をしようと思っています。その分、役に寄り添えていないのかなとか、均一なキャラクターにできていないのかなと思うので、舞台ではそれが特に難しいなと思っています。映像とは違って、舞台では、ここはこう動く、ここはこれくらいの声を出すと決まっていることがあるのでそこが難しいです」
岡本さん「千鶴は、台風の目のようなイメージで演じています。中心にいる千鶴はフラットで掻き混ぜようとしているわけではないのに、周りがそれに巻き込まれてぐるぐると回っていくというイメージが漠然とあるんです。千鶴ががむしゃらに引っ張っていったり、無理やり上げていったりしているわけではなく、そこにただ緩やかにいるだけなのに、影響力を持ってしまうという印象があるので、そういう人物になったらと思っています」
―山西さんが今回、演出をする上で、特にポイントを置いてるところを教えてください。
山西さん「うーん、そうですね…」
岡本さん「いい意味で、山西さんは演出が多くないですよね?最初は自由にやらせてくださる」
山西さん「演技の演出に関しては、そうだと思います」
岡本さん「演出している時、どんなことを考えてるんですか?」
山西さん「少し話が変わるかもしれませんが、僕が一番、重要視しているのはキャスティングなんです。ピンク・リバティは自分の企画なので、好きなキャストにお声がけすることができるんですが、そうしてお声がけして、キャストとスタッフが決まった時点で、ある程度は作品の最大値が決まると僕は思っているんです。なので、まず誰に声をかけるのかということにはものすごく気を遣っています。そこで、優れた人たちと一緒にやれるとなれば、稽古場で指示を出す回数や、演技指導的な演出を最小限にできるんですよ。とりわけ気にしているのは、自分のセリフのテンポを把握できる能力だったり、身体のニュアンスやキャラクターのバランスといったことです。最初に集まった時点でいろいろなことが見えてくるので、まずは“絶対に面白いと思える座組みにする”ところが一番だと僕は思います。僕の場合、脚本を書いている時点で、僕がやりたい大きな意味での演出は脚本の中に散りばめられているので、それを一緒に成し遂げてくれそうな人をまず探すというか。なので、稽古場で気をつけていることは“楽しくやりたい”ということくらいです」
岡本さん「質問してもいいですか?今、演出が脚本の中に散りばめられているとおっしゃっていましたが、作・演出の両方を担当するときは、脚本家としてと、演出家として、どちらの比重が大きいんですか?」
山西さん「人によると思いますが、僕は、自分で書いたのに面白くないシーンだなと思うこともあるし、長すぎるなと思うこともあるので、脚本に対して割とドライに関わっている気がします」
岡本さん「そうすると、稽古場にいる時は、演出家の方が強いんですか?」
山西さん「そもそも根っこでは、演出のために脚本を書いているところがあると思います。部分を担うというよりは、作品全体を調整するのが一番好きなので。そう考えると、僕は脚本家と演出家の割合が半々なタイプなのかなと思います」
―ありがとうございました!! 最後に、作品の見どころと公演への意気込みをお願いします。
山西さん「ブラックコメディ的な要素がある作品なので、意外と笑えるところが多い作品です。美しい風景も舞台中に立ち上げることができるのではないかと自信を持っているので、エンタメとしても楽しんでいただけると思います。意気込みは“頑張ります”の一言でございます」
岡本さん「中学校の同級生が連絡をくれて、最近、私の出演する舞台を観に来てくれるんですが、感想を聞いたら“物語の世界の中に入った気持ちになる演劇ってすごい”と言ってくれたんです。それは演劇ならではの楽しさだと思いますし、その言葉を聞けてすごく嬉しかったんです。この作品も、同じように物語の中に入り込んだ気持ちになれる作品だと思います。美しい風景も感じてもらえると思いますので、ぜひ気軽に観に来ていただけたら嬉しいです。頑張ります!!」
森田さん「映画では、この角度から観る、この人を観るというふうにカットが切り替わっていきます。でも、舞台はそれがないので、自由に観ることができる。なので、細かいところまで楽しんでいただけると思います。素敵な舞台になるよう頑張ります」
▶︎森田想さん&岡本夏美さん&山西竜矢さんのファッション事情◀︎
―今日のお衣裳のポイントは?
岡本さん「今日は取材があると聞いていたので、事前に3人でどんな服を着るのか話をしたんです。その時、山西さんは“グレーの服を着る”とおっしゃっていたのですが、そのまま、まさにグレーファッションですね」
山西さん「最近はワントーンコーデが多いですね。なので、ポイントは“ワントーン”です。特にグレーにこだわっているわけではないですが、黒よりも明るくしたいという思いでグレーにしています」
岡本さん「私も特にこだわりはないんですが、このTシャツが気に入っているので、それに合わせてコーディネートしました。このTシャツは、前面はシャツの素材で、後ろ面はTシャツ素材なんです。素材が違うので、それほどかっちりしてなくていいかなと思って選びました」
森田さん「私は、今日は“白いTシャツ”にしようと提案をしたので、それを具現化したファッションにしています。今回の服に限りませんが、洋服を選ぶときは、ブランド名よりも自分の体型に合う服を選ぶのを意識しています」
―普段はどんなファッションをしていますか? また、夏に向けてしたいファッションがありましたら教えてください!!
森田さん「夏は、毎年ギャルをやっているので、ギャルになると思います。キャミソールでお腹を出すような、肌を出すファッションをする予定です!! それから、白Tは普段から好きなので、パンツに合わせて履いています」
岡本さん「私は、夏は毎日、白Tにデニムでいいというくらいシンプルです。それが一番だと思っていて。山西さんは好きなファッションはありますか?」
山西さん「特にこれというのはないですが、古着は好きです」
【profile】
山西竜矢/Tatsuya Yamanishi
1989年12月26日生まれ。香川県出身。
同志社大学法学部卒。俳優としてキャリアを重ねる傍ら、脚本・演出について独学で学び、2016年演劇ユニット ピンク・リバティを旗揚げ。近年は映像作品も手掛け、21年には初の長編映画『彼女来来』で若手映画監督の登竜門 MOOSIC LABにて準グランプリ含む三冠を達成したほか、北米最大の日本映画祭 JAPAN CUTSで新人部門最高賞の「大林賞」を受賞するなど、高い評価を得る。その後も長久允監督・森田剛氏主演の短編映画『DEATH DAYS』のメイキングドキュメンタリー『生まれゆく日々』の監督・構成、ドラマ『今夜すきやきだよ』の脚本を担当するなど、ジャンルの垣根を越え精力的に活動している。
森田想/Kokoro Morita
2000年2月11日生まれ。東京都出身。
映画、ドラマを中心に幅広く活躍。近年の出演作品に映画『THE LEGEND&BUTTERFLY』『わたし達はおとな』『朝が来る』、ドラマ『#who am I』など。映画『わたしの見ている世界が全て』でマドリード国際映画祭2022 外国映画部門 主演女優賞 受賞。2024年1月公開予定の映画『辰巳』ではヒロインを演じる。
岡本夏美/Natsumi Okamoto
1998年7月1日生まれ。神奈川県出身。
『non-no』専属モデル。2013 年ドラマ『夜行観覧車』(TBS)でドラマ初出演を果たし、女優デビュー。近年の主な出演作に、ドラマ『きれいのくに』(2021・NHK)、映画『ハニーレモンソーダ』(2021)、『おとななじみ』(2023)、舞台『愛するとき 死するとき』(2021・小山ゆうな演出)、劇団時間制作第二十五回本公演『12 人の淋しい親たち』(2022・谷碧仁演出)、『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(2022・TX)などがある。
【公演概要】
■タイトル
ピンク・リバティ『点滅する女』
■日程・会場
2023年6月14日(水)~6月25日(日) 東京芸術劇場 シアターイースト
■作・演出 山西竜矢
■音楽 渡辺雄司(大田原愚豚舎)
■出演
森田想 岡本夏美
水石亜飛夢 日比美思 斎藤友香莉 稲川悟史(青年団) 若林元太 富川一人(はえぎわ)
大石将弘(ままごと/ナイロン100℃) 金子清文 千葉雅子(猫のホテル)
■公式ホームページ
https://pinkliberty.net/flashing-woman/
(2023,06,10)
photo:Tsubasa Tsutsui/interview&text:Maki Shimada
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