1972年に有吉佐和子さんによって書かれた戯曲で、杉村春子さんが主演・お園役で初演され、これまで新劇や歌舞伎、新派、音楽劇など、さまざまな形で繰り返し上演されてきた名作『ふるあめりかに袖はぬらさじ』が 劇団新派文芸部に所属し、歌舞伎や現代演劇、ミュージカルなど幅広い作品を手掛ける齋藤雅文さんの演出で9月2日(土)から新橋演舞場で上演されます。
主演の芸者お園を務めるのは、大竹しのぶさん、通訳として働く実直な青年・藤吉を薮宏太さん(Hey! Say! JUMP)、亀遊が働く岩亀楼主人を風間杜夫さんと豪華な顔ぶれが揃います。 今回、薮さん演じる藤吉と恋仲で噂の中心人物となる 遊女・亀遊を演じる美村里江さんに、公演への意気込みをうかがいました!!
ー作品へ出演が決まった時の気持ちを教えてください。
錚々たる先輩方が脈々と演じられてきた憧れの演目へお名前を挙げていただけて、とても嬉しかったです。その後に、大丈夫かなという気持ちもありました。それは、舞台上で足元からすべて見えてしまう状態での和装の所作は初めてなことと、私が演じる亀遊さんの年齢です。
舞台の上で実年齢とは異なる年齢の役を任せてもらえるのは役者として幸せなことですが、私の技術力で、自分の実年齢の半分以下の10代の女性を演じるというジャンプ力があるのか……。でもそこで少し考えたのが、実際に私が、18歳や19歳の頃にこの役ができただろうかという視点です。亀遊さんが持っている少女性だったり、儚さや自分の世界に引きこもってしまうところが、私にはあまりなく、元々の人間の気質として、少女性という部分が薄いという自覚もありました。5歳くらいのときでも自分が少女ということに違和感を感じていて。男の子になりたいというわけではなかったのですが、木登りや昆虫を捕まえることが好きで、どちらかというと早く大人になりたいと思っていました。女の子らしくということに関しては、なんだかしっくりこなくて、感覚と年齢がズレているなと感じることがあったんですね。なのでこの役をいただき、この機会にもう一度少女の自分に出会えたらいいなと思いました。そうしたら、亀遊として違和感なく存在できるかなと。亀遊さんの可愛らしさを理想として作ってしまって、そこへ自分をはめていこうとするとどうしても嘘っぽくなってしまうので、そうではなく、自分の少女性の発掘というところからスタートするといいのかもと思いながら稽古に入りました。可愛い部分、儚い部分を作るのではなく、人としての存在、お園さんと仲が良い亀遊さんとはどんな人なんだろうというところです。役作りの上で助かったところは、私がお園を演じる大竹しのぶさんと一緒に芝居ができて嬉しいという気持ちと、お園さんが好きという亀遊さんの気持ちが完全にマッチしたところですね。
ーそれは自然と笑顔が出てしまうという感じですね!!
そうなんですよ!!ニコニコ元気に笑いすぎてはダメなんですけれど(笑顔)。
ービジュアルを見た時の感想を教えてください。
皆さん出来上がっている!!もう役の声が聞こえてくるようだわって思いました。本読みの段階から先輩方の丁々発止のやり取りが素晴らしく、その姿を見ると憧れてしまい、早くそんな風にやってみたいという気持ちと、その手前にまだまだやることがあるよって手綱を引いている部分があります。まずは自分が亀遊として任せられている部分を丁寧にやっていかないといけない。先輩の演技は見ていてとても楽しくて憧れますが、自分が役者として参加する部分をしっかり分けておきたいと思っています。
ーご自身のお稽古でない時間も稽古場でお稽古を拝見されているとお聞きしました。
はい。どの方へのダメ出しでも自分にとって役に立つところがたくさんあるので、聞いているだけで勉強になります。また私自身練習がすごく好きなので、まず稽古ができるということが嬉しいです。本番の前にたくさんの練習をし、指導をしていただけることに喜びを感じるので、稽古場に入るのも一番早いですし、出番のない日も毎日90分くらい発声やストレッチをしてます(笑)。
ー新派の方もたくさん出演されるということで、歴史ある劇団の皆さんとご一緒する貴重な経験でもありますね!!
この作品への出演経験のある先輩方も多く、演じてこられた観点からたくさんのことを教えていただける環境はとても助かります。例えば今まで上演してきた歴史上の役の変遷。初期の亀遊は本当に10代の新人役者さんが演じていて、その後キャリアのある役者が演じるようになっていったそうです。亀遊の一幕での存在感が残るほど四幕の余韻に繋がるのではということになって、キャスティングも変わってきたのではと想像しました。先輩方からお聞きしたことは、作品のさらなる奥行きを考えさせてくれますね。
ー美村さん自身が感じる演じることの魅力、舞台の魅力とは?
デビュー前、CM出演のために事務所の演技レッスンに初めて行ったんですが、それが楽しくて。その時、演技の先生が何かオーディションを受けさせたらどうかとマネジャーに言ってくださったようで、参加した初オーディションに受かって役者スタートした経緯でした。演技のレッスンがとても楽しかったので、傍目から見ても明らかだったんでしょうね。その頃から演じることが楽しいということは変わりません。
本名があって、実際の生活があって。芸名があって、タレントとしての生活があって。さらに役名があって、役者としての生活があります。三層構造になっていて、自分という根っこが生えているけど遠くて、どこか人ごとのような感じがある。ちょっとしんどいことがあった時に、楽しいシーンを演じて気持ちが戻るということもあります。自分なんだけど自分ではないっていう両方の面を持っているので、応用が効きます。役が置いていってくれたものが役に立ったり、心を落ち着かせてくれることもあります。私の中では親友がたくさんいる感覚なんです。多分デビューした時からの役が私の心の中に全員住んでいて、ノックしたら出てきてくれるような感じなんです(笑顔)。そういう関係性なので心強いですよね!!人ってひとりだけど一人ではないという不思議な感覚を常に持っています。今回のように同じ作品の同じ役、これだけたくさんの先輩がやってきた役を演じさせていただくのは、そんなマルチバース的な心強さがあるせいか格別に嬉しいですね!!
舞台の楽しさは、前述の練習好きの性分から稽古に思う存分打ち込んで、さらに本番も何度もできることです。本番中は緊張はあまりせず、今までやってきたことをやっと見てもらえるという気持ちですね。もちろん自分の拙さに不安はありますが、それはプロとして封じることにして。稽古場で皆さんに手間をかけていただき、自分が心身注いだものから、お客さまに何かを持ち帰って頂きたいという一意専心の日々は、本当に楽しいです。毎日「あーーー楽しかった!!」と過ごしています。
舞台を見ることの魅力は色々ありますね。役者をやっているから感じることができる部分もあって、観客としても美味しい思いをしていると思っています。肌感覚で伝わってくる稽古の厚み、作る側としてはそれを感じさせないで劇中世界に観客を引き込むのが舞台だと思うのですが、それをどこかで感じられることによって、伝わってくるエネルギーがより多くなる感じでしょうか。役者になってから舞台を見るのがますます楽しみです。
ー先ほど一緒に演じることができて嬉しいとお話しされた大竹しのぶさんの役者としての魅力、お人柄の魅力とは??
観客として見る大竹さんは、本当にパワフルで、演技の密度が高い方です。役者として同じ作品に入って、役に対してどんなアプローチをされるのか注目していたら「どうしよう!?出来るかな。三味線大丈夫かな」ってすごく可愛らしくて。またどの立場の人間にも同じように接してくださるんですよ。座長として頼もしいけど「私だって同じだから」と常に同じ目線を持ってくださる、素晴らしい先輩です。この作品のお稽古は本当に楽しくて、それは大竹さんの肩に力の入っていない、それでいて熱心で集中されているバランスのおかげ様だと思っています。脱力と集中をしっかりとできる方だからこそ、この短い期間で多くの主演舞台をやることができるパワーを持っていらっしゃるのかもしれませんね。
私が自分と似ていると思ったことが1つあって。それはバッグが大きいということです!!作ってきた軽食や保湿スプレーやメモ帳などいろいろなものが稽古場に欲しくて、大きいサイズになってしまうのですが。大竹さんもそうしたアイテムで自分の状態を少しでも快適にして、その中で最大限集中しているようにお見受けしました。少しコンパクトにした方がいいかなぁと考えていましたが、今後も大バッグでいこうと思います(笑)。
ー最後に作品を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
本当に笑って泣けて、いろいろなものが響いてくるお芝居です。現代にも通じるところがすごいところで、亀遊の死に様が偶像化されて勝手に独り歩きしてしまうところが、ネットミームのような印象を受けます。亀遊を攘夷女郎として象ったシールが作られて、こんなことがあったんだってと無作為にシールが貼られていって、でも「亀遊さんは本当はそんな人ではない」と知っているお園さんの心に残ってしまうもの。その中でなんとか生き抜こうと抗うという姿勢が切なく響きます。フェミニズムとかそういうことではなく、生きていくということ。みんなご飯を食べなきゃ生きていけないよね。人は恋もするし、うまくいかないこともある。でも生きなきゃね……、というところの最後のお園さんの叫びはどの立場の方にも響くと思います。今の時代でインターネットを少し頭にかざしながら観てもらうとものすごく説得力があって、人間て変わらないんだとゾッとする部分も。人間の性(さが)や情がギュギュッと詰まっていて、オールマイティに楽しんでいただる作品ではないかと思います。
▶️美村里江さんのファッション事情◀️
ー今日の衣装のお気に入りポイントは?
演じる役のイメージを少し感じていただけるような儚げで華奢、シュッと見える感じがいいなと思いました。フリルやリボンが多いので、幼く見えるかなと思ったら、着てみたら大人っぽく見えて、シボの入った素材感も良くて。デザインとしての可愛らしさと素材感、オチ感の大人っぽさのバランスが、亀遊さんは少女だけど演じる私は大人というバランスと同じようだなと思いました。
ーアクセサリーも素敵ですね。
このイヤリングが今回とても気に入っていて、量産しているものではなく、作家さんが作っている作品で、すりガラスのような感じが少し和っぽいなと思って選びました。
ー普段の好きなファッションスタイルは?
趣味が釣りなので、行くぞ!!ってなった時にすぐに行けるスタイルが多いですね。どのような格好をしていても中はもじもじ君の場合が多いです(笑)。スパッツとインナーを着ていて、ついたらワンピースを脱いで、釣り用のウエアを着るという感じです。女らしいレースなども好きですが、いかなる時も中はもじもじ君です(笑)。
ー釣りはどこに行くことが多いですか?
海も川もどちらも行きますね。
ーすごく良い気分転換になりますね!!
稽古中は行くことはしませんが、堤防のところで夜釣りをするのは大好きな時間です。よし行こう、ってなった時に釣具を持ってすぐに行けるような今のスタイルになりました。
ー今後挑戦してみたいことは?
役者になって今年で20年になります。この世界で20年生き延びることができているとは思ってもいなかったので、自分でも自分に対してよくやったなぁ!!って思っています。ここから先の1年1年は自分にとってのご褒美だと思っているので、逆に自分に対してこうしたいというよりも、やってみてと言われたことをやってみるのがいいのかなとという感じです。
ー今回の作品もちょっと新しい挑戦ということですね。
そうですね!!伝統的な作品へ出演したいと思っていたので、夢が一つ叶いました。
ー明るい笑顔を絶やさない美村さんの素敵さを保つ秘訣は?
好きなことをしているので、本当に楽しくて、その一方で笑っていたら楽しくなるというのもありますね。笑顔の表情を作ると脳が楽しいと錯覚して楽しい気持ちが湧いてくるんですって。なので楽しい表情を作るのもいいと思います。
ー食べ物やその他のことで気をつけていることはありますか?
冷えとりを10年くらいやっています。頭がのぼせやすい体質と相性が良かったのか体調は20代の時よりいいですよ。あとは塩分ですね。WHOが推奨する塩分の摂取量も下がっていて、もしかしたら私の生活だとそんなに塩分は必要ないのかもしれないと思ったり。何か身体にいいという情報があったときに、そのまま取り入れても合わないこともあるので、自分に合うように調整してやってみることが良いと思っています。
【profile】
美村里江/Rie Mimura
1984年6月15日生まれ。埼玉県出身。
2003 年にドラマ「ビギナー」で主演デビュー。ドラマ・映画・舞台。CMなど幅広く活躍。エッセイや書評などの執筆活動も行い、新聞や雑誌にて複数のコラムを連載中。
近年の主な出演作に、大河ドラマ「西郷どん」「青天を衝け」、ドラマ「いま、会いにゆきます」「18/40~ふたりなら夢も恋も~」、映画「着信アリ 2」「わが母の記」「パラレルワールド・ラブストーリー」、舞台「スタンド・バイ・ユー
家庭内再婚~」「人間風車」「家族熱」「ニ次会のひとたち」などがある。
▪️公式ホームページ
https://mimulalala.com/
photo:Hirofumi Miyata/interview&text:Akiko Yamashita
【公演概要】
▪︎タイトル
『ふるあめりかに袖はぬらさじ』
▪︎日程・会場
2023年9月2日(土)〜9月26日(火) 新橋演舞場
▪︎作 有吉佐和子
▪︎演出 齋藤雅文
▪︎出演
お園 大竹しのぶ
藤吉 数宏太 (Hey! Say! JUMP)
亀遊 美村里江
思誠塾の門人 山口 馬木也
イルウス 前川泰之
大種屋 徳井優
岩亀楼主人 風間社夫 ほか
▪︎公式ホームページ
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202309_enbujo/
(2023,09,07)
#NorieM #NorieMmagazine #ノリエム #美村里江 さん #ふるあめりかに袖はぬらさじ #interview #インタビュー