『セールスマンの死』をはじめ、『るつぼ』『橋からの眺め』『みんな我が子』など近年でも多くの作品が日本で上演されている世界的な劇作家として知られるアーサー・ミラー の『アメリカの時計』 が長塚圭史さんの演出で9月15日より上演がスタートします。『アメリカの時計』は1980年、ミラーが 65歳の時に発表され、同年、サウス・ カロライナ州チャールストンのスポレット・フェスティバルで初演後、ブロードウェイでも上演されました。本作は1929 年の世界恐慌を扱ったアメリカ史劇で、株の大暴落により富の頂点にあった“アメリカの貌(かたち)”が脆くも崩れ去っていく姿が描かれています。 本作で描かれる主人公の一家・ボーム家の息子リー・ボームを演じる矢崎広さんへの意気込みや演出を務める長塚圭史さんの印象、インタビュー後半ではNorieM恒例のファッションについてお話をうかがいました!!
―矢崎さんが演じるリー・ボームとはどんな印象の人ですか?
世界恐慌が起きた1920年代から1940年ぐらいまでを生きた家族の中の一人リー・ボームを演じます。アーサー・ロバートソンとともに軸として物語を担っていく役割をし、この時代を本当に強く生きた人です。
―登場人物の50数名を13名で演じるというところも今回の見どころのひとつとして挙げられてます。どのように作り上げていっているのでしょうか?
家族のような稽古場で、それは演出の長塚さんの稽古場作りというものもあると思います。今回は、世界恐慌や世界恐慌が起きてる時のドイツ、ファシズム、ナチスについてなどキャスト一人一人が調べてきた歴史の発表みたいなものがあり、歴史も知りながら、そのキャストが発表を通してどんな方なのか、この歴史をどう捉えているのかということも同時に知ることができました。深い関係性になってから戯曲に取り組めて、濃いスタートを切れたので、その後は深い話まで一気に進めることができ、更にその中でも笑いの絶えないすごくいい雰囲気の稽古場です。その中で、『アメリカの時計』という作品を通して、アーサー・ミラーに向き合えていることは本当に幸せな現場だなと思います。
ー完成形に近づいていく中で楽しみにしてること、苦労していることは?
楽しみだなと思うことは、『アメリカの時計』という作品をひとつひとつ紡いでいって、お客さまにご覧いただいたときにどんな反応をしてくれるんだろうというところです。出来上がっているひとつひとつのシーンに自信も厚みもあるので、それをぜひお見せしたいです。苦労しているのは、時代がアメリカの1920年代から1940年代というところで、2023年を生きる人たちにとっては馴染みがあるかと言われたら、世界史が好きじゃないと難しいというところがあると思うので、そういう人たちにも共通のものがあるんだよっていうところを伝えたいなっていう思いがあります。そこをリンクさせていくのが少し大変ですが、そこがリンクしたら最高だなと思うところです。
ー家族が幸せに暮らしているところから思わぬ出来事での生活のレベルや様子が変化していく様子が描かれています。現代の日本でも予想もしていなかったコロナ禍があり、まさか自分たちの生活がこんなに変わるとは思っていなかったという部分があって、ご覧いただくお客さまにもそういうところがリンクしていってくれたらいいのかなと思うのですが、矢崎さんご自身が感じているコロナ禍を経て生活の変化はありますか?
演劇が一回すべてストップした様を見てきました。いざ開始したといっても、本当に厳重厳戒態勢の中でやるっていう演劇というものも経験しました。今も「もう大丈夫」ということではありませんが、こうやって思い切り稽古をできるということが幸せなことですし、今まで当たり前だったことが当たり前ではなかったということを思うだけではなく、多くのことを体で実感したと思います。コロナ禍を通して、国の情勢も変わり、そのしわ寄せがこの先何十年も続くかもしれません。そしてそれは日本だけでなく世界的に起こっていることで、今度はそれと向き合っていかなければいけない状況で、それは演劇でも他の業界の方にも同じことです。そんな状況で、アーサー・ミラーの『アメリカの時計』という作品に出会えてるのは、運命的だと思います。コロナもそうですが、戦争など今とリンクするところがたくさんある作品で、100年前の話ですが、調べれば調べるほど今と一緒だと感じるところが多いですね。そんな現代の状況を踏まえてご覧いただけるお客さまがいらっしゃると思います。皆さんの心に響いてくれたら嬉しいなと思います。
ー演出を手がける長塚さんの尊敬するところは?
演劇の大先輩ですので、尊敬するところしかないのですが、他のお仕事もたくさんされている中で、その許容量は一体どこにあるんだろうというくらいに誰よりも戯曲に対する情報量が入っていて、いろいろなパターンを瞬時に考えて並べて、いろいろな可能性を見て、この作品と向き合っていらっしゃるんだなということが分かります。説明するのが難しいのですが、僕には敵わないなと思う瞬間がたくさんあり、本当にさすがだな、これが長塚さんなんだということを日々感じています。そしてその中心には演劇の楽しさがあって、演劇の面白さ、演劇ならではのことを考えてらっしゃる長塚さんが好きだなと思いますし、ついていきたいと思うところです。
ー矢崎さんの感じる演劇の面白さは具体的にはどんなところですか?
テレビや映像で圧倒的なパフォーマンスを見て感動するっていうこともあると思いますが、目の前で見る芝居や動きを、見た時の感動をそのままフィルターを通さずにダイレクトに感じることができるのは舞台の醍醐味だと思います。そこでしか起きない、ライブというその感覚は少し言葉にはしづらいのですが、目の前で今何が起きているかを目撃するということが演劇の楽しさだと思います。VRなど時代は進んでいくけれどそこだけは変わらない演劇の醍醐味なのかなと。コロナ禍で人と距離をとるようになっていきましたが、舞台はそれとは真逆にいる存在なのかなと思います。
ー演劇を見る方も好きですか?
好きですね。身体の使い方や間の使い方を見て体感しに行くこともありますし、何も考えずに楽しみに行くときもあります。なんだろう、舞台を目撃しに行くという感覚が近いですね。面白いものを自分の目で目撃しに行くという感覚です。
ー今回の作品はまさに目撃しに行くという感じになるのでしょうか。
まさに1920年代のアメリカを題材に突き詰めてやっているので、僕らが作り上げた1920年代を感じて欲しい、目撃して欲しいなと思います。
ー最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。
100年前のアメリカの世界恐慌の時代のお話ですが、現代につながることがたくさんあるし、そういう危機感や教訓、その時代を生きる人たちを通して、現代の今の皆さんに見ていただいて何か感じていただける部分がたくさんあると思うので、一見難しいと感じるかもしれませんが、ぜひ2023年を生きる皆さんに見ていただきたいと思います。ぜひ劇場にいらしてください。
▶︎矢崎広さんのファッション事情◀︎
ー普段のお気に入りのファッションスタイルは?
若い時は太いGパンやすごくガチャガチャしたいろいろな服を着ていたような気がします。今、36歳の僕は、シンプルにさらっと無地のTシャツにGパンでカッコよくいたいなと思います。
ーシルエットもシンプルなスッキリした感じですか?
程よくオーバーサイズを着ることもありますが、シルエット的にはシンプルのほうが最近は好きです。サングラスとかも良くしています。ファッションにこだわりがあるほうではないと思うんですけど、サングラスとかワンアイテムで決まるものが好きですね。
ー今回撮影した衣裳のお気に入りポイントは?
ロングのシャツは頻繁に着ることはないのですが、改めて着てみてシルエットが綺麗で、スタイルが良く見える効果があるなって感じました。ロングシャツもいいな、大人っぽく決まるんだなという発見がありました。セットアップもずっと好きですね。
ーお忙しい時のリラックス方法は?
美意識の高いことをしている自分に酔うということです(笑)。パックしたし、筋トレもして、朝からウォーキングもして、カフェで台本とか読んで、お昼には時間があったら半身浴とか、そういう美意識高いことをしている自分に酔うことが最近の癒しです(笑)。
【profile】
矢崎広/Hiroshi Yazaki
1987年7月10日生まれ。山形県出身。
2004 年ミュージカル『空色勾玉』でデビュー。
以降、ミュージカルからスト レートプレイまで多数の舞台の経験を積みながら、ドラマ、映画、声優、CM ナレーショ ン、ラジオパーソナリティー等多岐にわたり活動。近年出演の主な舞台作品は『ジャージ ー・ボーイズ』(2016・2018 年)、『R&J』(2018 年)、『野田版 真夏の夜の夢』(2020 年)、『鬼滅の刃』(2021・2022 年)、『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』『ダーウィン・ヤング 悪の起源』(2023 年)、 ドラマでは TBS「半沢直樹」(2020 年)、NHKBS 時代劇「雲霧仁左衛門」シリ ーズ(2022・2023 年)、映画「あなたの番です 劇場版」(2021 年)、「仁義なき幕末 龍馬死闘 篇」(2023 年)など。
■公式ホームページ
https://tristone.co.jp/sp/actors/yazaki/
■公式Instagram
https://www.instagram.com/hiroshi_yazaki/
■公式X
https://twitter.com/hiroshi_yazaki
photo:Hirofumi Miyata/styling:Tanaka Tomoko(HIKORA) /hair&make-up: YUKIYA(SUNVALLEY) /interview&text:Akiko Yamashita
costume:kujaku(お問い合わせ tel:03-6416-4109)
【公演概要】
■タイトル
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『アメリカの時計』
■日程・会場
2023年9月15日(金)~2023年10月1日(日) KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
■作 アーサー・ミラー
■演出 長塚圭史
■翻訳 髙田曜子
■出演
矢崎広 シルビア・グラブ 中村まこと 河内大和
瑞木健太郎 武谷公雄 大久保祥太郎 関谷春子
田中佑弥 佐々木春香 斎藤瑠希 天宮良 大谷亮介
■公式ホームページ
https://www.kaat.jp/d/the_american_clock
終演後のアフタートーク情報!!
下記のスケジュールにて終演後にアフタートークが開催されます。
詳細は公式ホームページでチェック✅
■2023年9月20日(水) 14:00開演
出演:シルビア・グラブ 中村まこと 大谷亮介
長塚圭史(演出・ KAAT 神奈川芸術劇場芸術監督)
■2023年9月25日(月) 14:00開演
出演:矢崎広 河内大和 天宮良
長塚圭史(演出・ KAAT 神奈川芸術劇場芸術監督)
下記のインスタグラムでオフショット公開中!!ぜひチェックして!!
https://www.instagram.com/noriem_press/
(2023,09,19)
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