演出家・大河内直子さんとプロデューサー・田窪桜子さんによる演劇ユニット ・unrato(アン・ラト)のプロデュース公演#10 は、アントン・チェーホフの名作『三人姉妹』。
モスクワでの華やかな生活に戻ることを夢見ながら、田舎の閉塞感に満ちた日常の中で生きていく三姉妹たちを描く本作で、長女・オーリガを演じる保坂知寿さん、二女・マーシャを演じる霧矢大夢さん、三女・イリーナを演じる平体まひろさんへ意気込み、演劇ユニット・unratoの印象についてお話をうかがいました!!

 

―『三人姉妹』出演が決まった時の気持ちを教えてください。
保坂さん「2年前に出演した(演出の大河内)直子さんが手がけた『楽屋』という作品の中に『三人姉妹』の台詞がありました。『楽屋』では、稽古はしたけれど出演は叶わない幽霊の役だったので、今回『三人姉妹』への出演が叶い、これで浮かばれたねと思いました」

霧矢さん「チェーホフ作品、来たな!!って。崇高な戯曲というイメージのチェーホフの作品は、触れてみるとすごく人間臭く、それでいて人間模様はとてもわかりやすい。舞台が19世紀のロシアなので、日本人の私たちにとっては入り込みにくい部分はあるかもしれませんが、今取り組むべき作品だと思います、芸術の秋に、がっつり演劇であるチェーホフ作品へ出演できることが嬉しいです。数年前にトルストイの「戦争と平和」をベースにしたミュージカルに出演し、ロシアについて勉強しましたが、また新たな気持ちで取り組みたいと思っています」

 

―アン・ラトのプロデユース公演に保坂さん、霧矢さんは何度かご出演されていますが、アン・ラトが手掛ける公演の魅力とは?
霧矢さん「宝塚歌劇団を11年前に退団し、出演者2人の小劇場でのミュージカル作品に出演したのが最初です。そこからいろいろな作品で女優・霧矢大夢を育てていただいてます。11年目に突入し、さらに育てていただこうと思っております」

 

保坂さん「私は、最初に出演した作品が霧矢さんとの二人芝居でした。演出の直子さんを筆頭に、スタッフ皆さんがプロ。直子さんの世界観は、とても豊かで、何を見ても美しいんです。それをスタッフみんなが包みこんでいる舞台だなあと感じました。2人だけの芝居でしたが、いろいろなものに助けられて、豊かな時間を過ごすことができたので、私はアン・ラトが手掛ける作品が大好きだなと思いました」

 

ー観客として劇場へ伺うと、客席に入ってから目の前に広がる世界にまずワクワクし、この舞台で何が繰り広げられていくんだろうという期待感が毎公演味わえますね。平体さんはアン・ラトの作品は初出演ですね。
平体さん「公演が始まる前のワクワク感というのは本当にそうだなと思います。音響も、この効果音は何に繋がるんだろうとか、すごくワクワクするし、見た目が本当に美しくて、そこで役者さんたちがすごくエネルギッシュ生きているという印象があります。演出の大河内さんは、役者がどういう風にやりたいかということを最後まで決めずにいろいろ試させてくれる。そんな創作においての課程がそのまま舞台に乗るから、役者さんたちが生きて見えるんだと感じました」

霧矢さん「セットも細部までこだわりがあって、近くまで行って見たいと思うものが多かったです。世界を表現するためのこだわり、美学が詰まっているなと感じます」

 

保坂さん「本当に毎回それを感じさせていただいているので、すごく今回も楽しみです。『三人姉妹』ではたくさんの出演者の方と共演できるのも新鮮で楽しみです」

 

ー『三人姉妹』という作品にはどんな印象をお持ちですか?
平体さん「好きな戯曲なんです。チェーホフの『かもめ』を文学座研究所の卒業公演でやりましたが、その演目決定の時に演出家から『かもめ』と『三人姉妹』のどちらをやりたいですか?と聞かれたんです。考えて話し合って、結果『かもめ』に決まりましたが、私は『三人姉妹』を推していたので、今回やっとできる!!とすっごい嬉しくて。でも、最初に戯曲を読んだ時は、登場する人たちみんながすごく滑稽で、何なんだ?この人たちって思いました(笑)」

霧矢さん「喜劇のようでもあるよね」

平体さん「読めば読むほど、みんなのことが好きになったり、逆に嫌いになったりとか。一人一人が同じ時代を生きてるいるのに全然違う人間関係の豊かさがすごく面白くて、今この時代に日本でやることをすごく今楽しみにしてます」

 

ー保坂さん、霧矢さんとの共演は?
平体さん「共演には『マジ!?』って感じですね。『長女が保坂さん、二女が霧矢さんなの!!??』ってみんなに言われるんですが、私が 一番それを思っているから。本当にたくさん勉強をさせていただきます。私は文学座所属で、劇団四季、宝塚歌劇団と3姉妹の出自が違うので、キャリアも稽古への取り組み方も違うので、本当に楽しみです」

 

ー保坂さんと霧矢さんは共演経験もありますね。
保坂さん「霧矢さんとは多くの作品で共演をして、いろんなことを共有してきましたね」

霧矢さん「いつもその言いたいことを言いあえる間柄で、気になることが共通するので、そこを共有して、さぁ頑張ろうと思えるんです」

保坂さん「そうだね。いてくれるのが本当にありがたい存在です」

 

ーこんな風に作品に取り組んでいきたいと考えていることは?
保坂さん「この作品は誰が主役というのでなく、お客さまが誰に感情移入するかで感じるところは違ってくると思います。登場人物も多いので、見どころがたくさんあります。このキャラクターはこうとか、一番上のお姉ちゃんはこういう人とか、あまり決めてかかりたくないと思っています。今そこで生きてる人が、結果そういう人に見えたという自然な感じになればいいなと思っています」

霧矢さん「役者が立ち上がって、言葉を発して、立体感が見えてきて初めて自分の役柄もどんな役なのかがはっきりしてくると思います。皆さんと一緒に稽古して、肉付けして作り出していく作業が楽しみです。姉妹は、それぞれ思ってることや立場が違うので、自ずと3人それぞれの個性が出てくると思います」

 

平体さん「たくさん演じられてきた戯曲だからこそ、この役ってこうというイメージというのがあるかもしれないけど、一体それってそうなんだっけ?っていう問いかけから始めたいですね。100年以上前のロシアの話ですが、これだけ長く上演されているということは、「いかに生きていくか」というテーマに対して共感できるからだと思います。苦しんだり、もがいていたり、それをも考えず生活できている人もいたり、本当に多種多様のキャラクターの中で、今26歳の自分が、登場人物をとらえ直した時にどういう新しい人物像生まれるか。むしろ、より根源的なものに近づいてくるのかもしれません。人間をもう一度発見し直すことに取り組みたいと思います」

 

ー最後に作品の魅力と上演に向けての意気込みをお願いします。
保坂さん「今回は新しい翻訳をいただきました。台詞がより喋り言葉になっていて、昔の古典劇を翻訳したぞっていう言葉ではないものになっています。新訳の台詞によって、今のお客さまとの距離感を改めて自覚することができるので、それを活かしたいですし、しっかり意味を消化して、お届けできるようにしたいなと思ってます」

霧矢さん「登場人物がたくさん出てきます。一言でいうとみんなちょっとダメ人間という印象があります。それぞれみんなが何かしらの不満を抱えていたり、満足していなかったり。だから人に文句を言うし、悪口も言う。借金も作るし、お酒も飲む。志を高く貫いているような、他人から憧れられるような人は出てきません。だからこそ、人間ってそういうもんだよねと思える。どんなに立派な地位の人でも完璧には生きれない。そのダメなところの出し合い大会のような作品なので、そこがちょっと滑稽だったり、親近感や愛おしさになるのがチェーホフ作品の魅力的なところ。そこを探求し、懸命に役を生きて、なんか変な人たちだけど、親しみを持って人間ってそうだよねと肩肘張らずにご覧いただきたいなと思います」

平体さん「いろいろな人間が出てくるお芝居を、これだけ出自の違う俳優陣が演じるので、それだけですごく厚みのあるものになると思います。お客さまも、「この人の気持ちわかる。でもあっちの人の気持ちはわからない」とか、逆に「あっちはわかるけど、こっちはわからない」とか、「あの人の考え方素敵だな」って思う人がいれば「どうして?」と受け取る方もいると思います。人間模様を見ながら自分が共感できる人やむしろ反面教師にしたい人を見て、「みんな頑張って生きてるな。私も明日頑張って生きてみるか」と思っていただけたらうれしいです」


【profile】
保坂知寿/CHIZU HOSAKA
2月13日生まれ。東京都出身。
https://rockriver.co.jp/artist/chizu-hosaka/

 

霧矢大夢/Hiromu Kiriya
10月2日生まれ。大阪府出身。
https://kirism.jp/

 

平体まひろ/Mahiro Hiratai
11月19日生まれ。北海道出身。
http://www.bungakuza.com/member/prof/hiratai-mahiro.htm

 

【公演概要】
■タイトル
unrato#10 『三人姉妹』
■日程・会場
2023年2023 年9月23日(土)~9 月 30 日(土) 自由劇場
■作 アントン・チェーホフ
■演出 大河内直子
■翻訳・上演台本 広田敦郎
■出演
保坂知寿 霧矢大夢 平体まひろ
大石継太 笠松はる 伊達暁 鍛治直人 近藤頌利 内田健司
浦野真介 須賀田敬右  青山達三 羽子田洋子 金聖香 廣田奈美
ラサール石井
■公式ホームページ
https://ae-on.co.jp/unrato/threesisters/

(2023,09,26)

photo:Tsubasa Tsutsui/interview&text:Akiko Yamashita

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