演出家・大河内直子さんとプロデューサー・田窪桜子さんによる演劇ユニット「unrato」の11作目となる公演『月の岬』が2月に上演されます。長崎の離島を舞台にした本作は、ありふれた日常を送る平岡家の日々と小さな事件、そしてそこからそこに暮らす人々の秘密が暴き出される姿を描いた物語です。主人公の平岡信夫を務めるのは陳内将さん。信夫の妻・直子を梅田彩佳さん、信夫の姉・佐和子を谷口あかりさんが演じます。陳内さんに本作に挑む思いや見どころ、さらには恒例のファッション事情をお伺いしました!!

 

―まず、この作品との出会いを教えてください。
以前からプロデューサーと「会話だけで進む本格的なセリフ劇に挑戦したい」というお話をしていたのですが、今回、ついに動き出すことになりました。いくつか提案をいただいて、その中の一つがこの作品でした。たまたま、読む前に、『夏の砂の上』という作品を世田谷パブリックシアターで観たんですよ。オフの日にふと芝居が観たいと思って、たまたま調べて観ることができたのがその作品でした。『夏の砂の上』も(『月の岬』と同じ)松田(正隆)さんの脚本だったので、この『月の岬』を送っていただいて読んだ時に、「あれ、この作品と同じ匂いを、最近、感じた」と思って…。

 

―最初に読んだときから「これだ!」という手応えがあったんですね?
ありました。舞台が長崎ですし、僕自身との共通点が多かったというのもあると思います。

 

―今のお言葉にもあった通り、今回は長崎の離島が舞台で、セリフは全編長崎弁です。陳内さんも九州出身ですが、長崎弁には馴染みがありますか?
僕は熊本出身ですが、天草なので、どちらかというと熊本市内の喋り方よりも、この戯曲にある長崎弁の方が近いんですよ。なので、違和感は全くないですね。スッと入ってきます。方言が苦手だという方がいらっしゃったら、僕でよければサポートもできると思うくらい、馴染み深いです。実際に稽古に入ったらいっぱいいっぱいになっているかもしれないですが(笑)。

 

―そうすると、この物語で描かれている島の情景も浮かんでいますか?
僕も実家の目の前が海で、その海の先には島があって、船に乗ればすぐに島に行けたり、家の向かい側に海水浴場があったりしたので、リンクするところは多いですね。それは今回の僕の強みにもなると思います。例えば、僕が全く違う地域の出身で、標準語しか話せなかったら、まず長崎弁のイントネーションに苦戦するところからスタートすると思うし、海で育ったという役の説得力が減ると思うんです。生まれた時から当たり前にそこにあった景色とこの戯曲で描かれているものはすごく近いイメージなので、僕がそれを具体的にイメージして演じることで、お客さまにもより伝わりやすくなればいいなと思います。

 

―今、戯曲を読んで感じている率直な感想を教えてください。
そもそもこの作品の難しくもあり、好きなところが、セリフで言っていることが必ずしもその人物の本心ではないということです。心にあるものではないことも言っている。そんなセリフの連鎖で物語が進んでいきます。生きていたら建前で話すことも多いですし、心で思っていることを言えない場面も多いですよね。信夫も本心ではない言葉を話している場面があって、そこがこの作品のポイントだと思います。それから、信夫は「フーン」というセリフが多いんですよ。自分で聞いたくせに、面倒くさくなったら「フーン」で終わらせたりします。その「フーン」は全てを納得したようにも思えるし、もういいやと諦めているようでもあるので、その音色だけでも遊べるなと今は感じています。

 

―「フーン」で濁して、結局、何が事実なのか明らかにならないことも多いですが、分からないことがあるからこそ物語がよりリアルに感じられました。
しかも、お客さまの体調だったり、観た回数だったり、置かれた境遇だったり、観るタイミングだったりによっても感じ方は変わると思います。僕も最初に読んだ時と時間をおいて読んだ時では、引っかかるポイントが変わっていたんですよ。「この言葉はわざと入れているな」とか「あえて抽象的な言い方をしているんだな」とか、新たに気づくことも多かったです。このセリフはこういう思いで言っていますと決めつけてしまうと余白がなくなってしまうので、セリフとしては50パーセントくらいは濁しておくのが楽しそうだなと思っています。

 

―共演の梅田さんや谷口さんの俳優としての印象や、今回の共演で楽しみにしているところを教えてください。

僕はお二方とも初めましてなのですが、梅田さんは同じ九州出身なので、勝手に親近感が湧いています。梅田さんは、僕のソウルメイトの加藤将と同じ事務所という意味でも身近に感じているので、仲良くできたらいいなと思います。谷口さんはお姉ちゃんということもあり、いい具合に甘えたいなと思っています(笑)。

 

―ところで、ストレートプレイでの主演は久々だと聞いています。
そうですね、ただ、何を切り取ってストレートプレイというかというのもありますが。今回は会話劇で、ウィッグもつけず、元のキャラクターがあるわけでもないので、ストレートプレイと言っていますが、だからと言って、変な気負いはないかなと思います。

 

―いわゆる2.5次元舞台やエンターテインメント性の高い作品と、こうした人間を掘り下げる会話劇では、面白さの違いはありますか?
違いではないですが…エンターテインメント性が高い作品であっても、芝居部分をポーズで終わらせたくないという思いが僕はあるんですよ。きちんと心情の変化があることを大事にしたいんです。お客さまからみたら、もしかしたら同じに見えるかもしれないけれど、毎公演、違う感じ方をして、出し方を変えていきたいとは思っています。それは若い時に養成所や、アンサンブルを経験して教わってきたことです。今回の作品では、それを存分に発揮できると思っています。

 

―では改めて、信夫を演じる上で、どんなところをポイントにして臨んでいきたいと考えていますか?
まずは、平岡家のリアリティを感じながら作ろうと思っています。それが作れないと、長崎市内から来たきれいなお嫁さんの直子という存在が浮き上がらないので、そこは意識したいです。そして、この兄弟たちの在り方から「家族ってこうだよね、兄弟ってこうだよね」というものを描きたいというのが第1目標です。そのためには、あまりにも信夫が際立ちすぎていてもいけない。あくまでも平岡家の日常を描くことが大切だと思います。信夫は自分と近いところがありますが、そこに甘えずに、0からしっかりと作っていきたいです。


▶︎陳内将さんのファッション事情◀︎
―今日のお衣裳のポイントは?
『月の岬』の信夫は、劇中でフォーマルな格好に着替えるので、それにちなんでセットアップを選びました。それに緑のタートルネックを合わせて、気合いを入れました。

 

―普段はどんなファッションが多いんですか?
ラフに動けた方がいいなと思っています。シャツはたくさん持っていますね。今はもうシャツ1枚で出るのは寒いのでさすがにそれはないですが。あとは、サルエルパンツが好きです。この秋は、シャツにサルエルのスタイルが一番多かったように思います。

 

―ファッションのこだわりは?
こだわりというわけではないですが、トップスがシュッとしたものに広がったパンツを合わせたり、その逆に上はダボっとしてパンツはシュッとさせるというような、シルエットを重視しているところはあります。『月の岬』の中で、妹の旦那の幸一のモーニングのサイズについてあれこれ言うシーンがあるんですが、あんなふうにサイズがおかしいとか言われるのは嫌だな(笑)。

 

―最近は、どんなアイテムを買いました? お気に入りアイテムを教えてください。
ユニクロのロングダウンコートを買いました。寒くなってから、改めてユニクロってすごいなと実感してます。ヒートテックもそうですが。あとは、寝巻きとバスローブを最近は買ったかな…。自宅用の物ばかりですね(笑)。

 

―では、お休みの日はどのように過ごされているんですか?
1番直近の休みは、ずっと寝てました(笑)。寝て頭を休ませる日にしようと思って。舞台の稽古期間中にオフの日があったら、前日に共演者や仲間たちとお酒をちょっと飲んで、作品について話すこともありますし、オフの日は日用品や足りないもの、食材を買い出しに行って家事をしていると1日終わってしまうことも多いです(笑)。

 

―最近ハマっていることはなんですか?
食べることが好きなんで、今は早く火鍋に行きたくてたまらないです。辛いのが苦手という人が周りに多くて、火鍋をこよなく愛する友達が全然いないので、なかなか行く機会がないんですよ。僕は、辛いものも鍋も好きだから、火鍋が大好きなんですが。あとは馬肉料理。この間、加藤将と2人で馬肉専門店に行ってきました。これで明日、頑張れるなと、パワーつきました。

 

―疲れた時やストレス溜まった時のリラックス法は?
ご飯とお酒ですね。火鍋や馬肉と言いましたが、家で美味しいものを食べるのも好きなんですよ。地元の天草のアジのみりん干しは冷凍庫にストックしていますし、馬刺しもブロックで買って冷凍庫に入れてあります。1日最後の食がご褒美にならないと嫌だなと思っているので、たまには贅沢していいお肉を取り寄せようとか、そうやって自分の中で楽しみを作っています。

 

―では、陳内さんが輝き続けるための秘訣を教えてください。
僕は、常にお仕事をしていたいタイプなので、これまでずっと突っ走ってきたんですが、今年になって休みって大事だなと思うようになりました。当たり前ですが、お休みがあったら、休もうと(笑)。休むことで、スッキリするし、見通しがつくし、体力も回復する。本当に当たり前のことですが。ずっと突っ走り続けていたらダメなんだなと。適度に休んで、栄養補給して、それでリセットして、また1から頑張ろうということをしていかないと、輝き続けたまま急にパンって暗転して終わってしまうのは怖いので、適度に、こまめな休みを心がけるようにしています。そうすれば、また輝かなくてはいけない時に光れるようになるのかなと思います。

 

―そう思うようになったきっかけがあったんですか?
このご時世も相まって、休みたくなくても休まなくてはいけない時期があった時に、こんなに休んでいていいのかなという恐怖心のような感情もあったんですが、同時に、今、生きているんだからこれでいいと思ったんですよ。それまでなら、休みがあってもずっと動いていたと思うんですが、今は、実家に帰ればいいんだとか、せっかくだから観劇に行こうとか、自分が立ち止まることで学んだり、得られるものもたくさんあるんだと休みを前向きに捉えられるようになったので、それはよかったなと思います。

 

【profile】
陳内将/Sho Jinnai
1988年1月16日生まれ。熊本県出身。
近年の主な出演作は、MANKAI STAGE『A3!』皇天馬役や舞台『紅葉鬼』主演・西條高人/経若役、「文豪とアルケミスト」織田作之助役、舞台『東京リベンジャーズ ー聖夜決戦編ー』龍宮寺堅(ドラケン)役を演じるなど2.5次元系舞台のほか、2023年はリーディングシアター「アドレナリンの夜」、朗読劇「ルビンの壺が壊れた」などに出演。2024年1月28日には自身初のバースデーイベントを開催、2月にはunrato#11『月の岬』への出演を控えている。
▪️公式Instagram
https://www.instagram.com/chanjin0116/
▪️公式X
@chanjin0116

photo:Hirofumi Miyata/hair&meke-up:Kei Kokufuda/interview&text:Maki Shimada


【STORY】
舞台は1980 年代、長崎県の離島。夏の朝、平岡家の居間。長女の佐和子、すでに嫁いだ次女の和美は、長男の信夫と直子の結婚式に出かける支度で忙しい。信夫や和美の夫・幸一が勤める高校の生徒たち、佐和子の元 恋人で幼馴染の清川悟、その妻と娘などが訪ねてくる。 ありふれた日常をおくる平岡家だが、小さな事件が起きる。人々の会話から微かな亀裂が露見し、深い歪みがそこに暮らす人々の秘密となって暴き出されていく。

 

【公演概要】
■タイトル
unrato#11『月の岬』
■日程・会場
2024年2月23日(金)~3月3日(日) 東京芸術劇場 シアターウエスト
■作 松田正隆
■演出 大河内直子
■音楽 三枝伸太郎
■出演
陳内将 梅田彩佳 谷口あかり
石田佳央 田野聖子 岡田正 奥田一平 松平春香 山中志歩
赤名竜乃介 天野旭陽 真弓 金子琉奈
■企画・製作 unrato
■主催 アイオーン
■公式ホームページ
https://ae-on.co.jp/unrato/tsukinomisaki/

(2023,12,25)

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