「第49回菊田一夫演劇賞」授賞式が2024年6月6日(木)に行われ、『ラグタイム』に出演した石丸幹二さん、井上芳雄さん、安蘭けいさん、そして柿澤勇人さん、宮澤エマさん、三浦宏規さん、ウォーリー木下さん、前田美波里さんが登壇しました!!
「菊田一夫演劇賞」は、日本の演劇界に偉大な足跡を残した菊田一夫氏の業績を永く伝えるとともに、演劇の発展の一助として、大衆演劇の舞台で優れた業績を示した芸術家(作家、演出家、俳優、舞台美術家、照明、効果、音楽、振付、その他のスタッフ)を表彰するものです。
第49回となる今年度は、菊田一夫演劇大賞に『ラグタイム』上演関係者一同、菊田一夫演劇賞に柿澤さん、宮澤さん、三浦さん、ウォーリーさん、菊田一夫演劇賞特別賞に前田さんが輝きました。授賞者の皆さんは、それぞれステージで表彰され、演劇、舞台への想いを語られました!!
授賞者のコメントは以下。
■菊田一夫演劇大賞
「ラグタイム」上演関係者一同(「ラグタイム」の高い舞台成果に対して)
>>>石丸幹二さん
「この作品にかける私たちの想いは、特に人種の問題をどう乗り越えるか。それから難解な音楽をみんなでどう歌い切るか。そんな課題が山積している状態で稽古が始まったのですが、演出の藤田俊太郎さん、スタッフの皆さまも知恵、アイディア、新たな解釈を踏まえながら稽古場でどんどん練り上がって、受賞対象になるような形まで仕上がってまいりました。私、個人的には四半世紀前にニューヨークで見て衝撃を受けまして。その時の衝撃は、音楽の素晴らしさ。そこに心を打たれました。いつか日本でこの作品ができる日がきたらいいなと淡い思いがあったのですが、時を経て上演できたことを嬉しく思っています。このメンバーに支えられてきました」
>>>井上芳雄さん
「先ほどいただいた(大賞の)賞金の金額にちょっとボーッとなったところはありましたが、これからどういうふうに分けるか楽屋で話し合いたいと思います(笑)。この作品を日本で上演するのはたくさんの課題があったと思います。それをみんなの力で乗り越えて、結果、アジア人だからこそできる表現でお客さまにお届けできたことを誇りに思っていますので、この賞をいただけて嬉しいです。僕が演じたコールハウスという役は黒人の男性ですが、僕は黒人の男性を演じるのが初めてで、でも、それには時代が変わっているので、人種の表現も今までにない道を探そうということで、みんなで試行錯誤したんですが、チラシの段階ではカツラをかぶっていました。ただ、舞台稽古になって衣装を着て、メイクもして、カツラをつけて稽古していたら、『いつもの髪の方がいい』と。みんなで話し合い、普段の僕に近い方がいいんじゃないかとなったのですが、カツラという記号があることで黒人の方を演じられるんだと安心材料にしてしまっていたところがあった。でも、僕たちには記号はいらないんだなと思いました。生きた人間として、その作品に相応しい上演形態を探っていければ、必ずお客さまに届くという自信と勇気をもらいました」
>>>安蘭けいさん
「改めて素晴らしい作品に出会えたんだと感謝しています。言いたいことは石丸さんと芳雄くんが言ってくださったので、私から述べることは何もありません。ただ、一つだけ言いたいのは、演出家、演者、色々なスタッフさんみんなの力でこの作品を作り上げて、素晴らしいものにできたんだと思います。そして、この作品を愛してくださったお客さまがたくさんいらっしゃったんだなと嬉しく思っています。とても大きな賞をいただき、素晴らしい賞金をいただき、それを本当にみんなでどうやって分けようかなって(笑)。それがこれからの課題かなと思います」
■菊田一夫演劇賞
柿澤勇人さん(「スクールオブロック」のデューイ・フィン役、「オデッサ」の青年役の演技に対して)
「人間一生懸命、がむしゃらに誠実に頑張ればなんとかなっちゃうんだな、報われるんだなというのが正直な今の思いです。『スクール・オブ・ロック』ではギターを演奏するのが人生で初経験でしたし、『オデッサ』では標準語、鹿児島弁、英語という、ある意味3ヶ国語を操る通訳の役だったので、そんなことも初経験でした。『スクール・オブ・ロック』は夜中まで残って練習していましたし、『オデッサ』の稽古場では重々しいどころか絶望の中、稽古に入っていました(笑)。『オデッサ』の脚本・演出の三谷さんは、僕に気を遣ってくださって『柿澤さん、大丈夫。僕には見えてますから』という言葉をいただきまして、すごく救われました。(公演が)終わった後に、『鹿児島弁と英語で芝居したことないのに、どうしてそういう設定を僕にあて書きでそうしたんですか?』と三谷さんに聞いたら、『見切り発車です。柿澤さんが喋れる確証はなかった』と。何も見えていなかったんだなと思いまして、恐ろしいな、鬼の三谷幸喜さんだなと思いました(笑)。演劇をやっていると今後もそのような高い壁がやってくると思います。ただ、それでも諦めずに、一生懸命、誠実に、がむしゃらに精進してまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
■菊田一夫演劇賞
宮澤エマさん(「ラビット・ホール」のベッカ役、「オデッサ」の警部役の演技に対して)
「2023年は初舞台から10年目の年でございまして、その年に初めての主演をやらせていただいてすごく嬉しかったです。恵まれたご縁と作品とカンパニーのおかげで今の私があるんだなとひしひしと感じる10年目でした。10年前の作品は柿澤くんと一緒でしたので、『オデッサ』の稽古中に『10年経ったけど、私たち演劇賞に全く縁がないね』と話をしていたら、二人でこういうふうに素晴らしい賞をこうしていただくことができたので嬉しく思っています。この10年で、いかに作品とそして現場に恵まれるかということをひしひし感じました。この『ラビット・ホール』『オデッサ』という作品は、この座組み、このチームでなければなし得なかった作品だと心から思っているので、この場を借りてお礼を言いたいと思います」
■菊田一夫演劇賞
三浦宏規さん(「のだめカンタービレ」の千秋真一役、「赤と黒」のジュリアン・ソレル役、「千と千尋の神隠し」のハク役の演技に対して)
「いずれの作品も日本初演だったり、新作公演だったんです。なので、一から全員でものづくりをするという経験ができて、初演ものは大変なことが多いですが、全員で力を合わせてどの作品もまっすぐ作っていったものなので、その作品たちで受賞できたことを嬉しく思っています。私は、クラシックバレエを5歳から習っていて、クラシックバレエのダンサーになるのがずっと夢でした。ただ、怪我をしてしまって、どうしようかと思っていた14歳の時に演劇に出会って魅せられて、『俺はこの世界に進むんだ』と思い直し、舞台が好きだと思って今までやってきました。家訓として母から『人が趣味でやるようなことを仕事にするのは、生半可な気持ちではできない。人並みの努力じゃできない』とずっと言われてきました。その母の教えを信じてきたからこそ、この場に立てているのだと思います。両親、家族にはすごく感謝しています。僕は、死ぬその日まで舞台に立ちたいという夢があるんです。その場を作っていけるように、これからも精進していきたいと思っております」
■菊田一夫演劇賞
ウォーリー木下さん(「チャーリーとチョコレート工場」「町田くんの世界」の演出の成果に対して)
「30年くらい前に関西の小劇場で劇団を旗揚げをして、当時は楽しいからやろうとただそれだけでした。うちの家訓は『楽しいからやれ』なんで、楽しいからやっていたんですが、さすがにこれは何もないなと20年目くらいに思って海外に行こうと。それで行ってみて、そこにも何もなかったんです。でも、そこでも楽しいからやろうと思って続けてきました。たくさんの人が助けてきてくれたおかげだと思っています。今回受賞した2作品も最初にプロデューサーの方が『これをウォーリーと一緒にやろう』と言ってくれたことが大きいですし、そのあと集まってくださったスタッフ、キャストの皆さんが、楽しんでものづくりができる現場になったらいいなと思っていたら、僕より楽しんで作ってくれた作品です。コロナ禍で『好き』という言葉の相反する不都合さ、辛さを考える時期もありましたが、今は『好きだからやる』ということを好意的に思っています。これからも好きな演劇やミュージカルを作っていきたいと思っております」
■菊田一夫演劇賞特別賞
前田美波里さん(永年のミュージカルの舞台における功績に対して)
「菊田一夫先生との思い出をお話ししたいと思います。私が15歳のとき、『ノー・ストリングス』というミュージカルが芸術座でかかることになりました。当時、私はクラシックバレリーナになろうと東京に出てきておりました。とあるマネージャーが菊田一夫先生が書かれたエッセイで、『あと10年するとハーフの人間がミュージカルをやって生きていくだろう』と。それを読んだマネージャーが私をなんとか菊田一夫先生に会わせたいと東宝の門を叩いたことがあります。そして、私はオーディションを受けることになり、8つの丸の中で自己表現をしました。ただ、私は何もできませんでしたので、クラシックバレエのパを1つずつやって、8つ終えました。そして、なぜか私、1位になりました。最後に言われたのは、(自分の名前を言うように言われ)『芸能人みたいな名前だな』と菊田先生がおっしゃったのをよく覚えています。菊田先生が『1年やっても無理。10年やって1年生だと思わないと舞台はやっていけないよ』とおっしゃっていました。今、60年経ちました。やっと6年生なんです。だから、皆さん、私、もう少し生きたいと思います。それも舞台の上で。せっかくの素晴らしい賞をいただいたので、もう少し頑張って、あとせめて20年。いいじゃないですか。ヨボヨボになっても。そんな役をどうか演出家の方たち、書いて、私に役をください。私も舞台の上で死にたい気持ちです。菊田先生、ありがとうございます。すごく嬉しい賞をいただきました」
(2024,06,07)
photo&text:Maki Shimada
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