世田谷パブリックシアターでこの夏から新たにスタートする「せたがやアートファーム」のメインプログラムとして音楽劇『空中ブランコのりのキキ』が上演されます。本作は、劇作家・童話作家として数々の名作を生み出してきた別役実さんの童話数作品を原作にした音楽劇で、演劇・歌・音楽・サーカス・ダンス・アクロバットを融合し、楽しくも切ない物語を描き出します。原作となっているのは、「空中ブランコのりのキキ」と、童話集「山猫理髪店」より「愛のサーカス」などサーカスをテーマとした作品数本、そして「丘の上の人殺しの家」です。不条理でどこか不思議な物語を構成・演出の野上絹代さんが1本の音楽劇として再構築します。空中ブランコのりのキキを演じる咲妃みゆさんと、キキに寄り添うロロ役の松岡広大さんに公演への意気込みや役作りについて聞きました!!
―ご出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。
咲妃さん「私は一俳優として挑戦し続けることを目標としていますので、憧れていた世田谷パブリックシアターの舞台で新たなことに挑戦する機会をいただけることがとてもありがたく、すぐに出演させていただきたいとお返事をしました。童話を元に物語が紡がれるとてもすてきな企画です。さまざまな経験を重ねてきた今だからこそ、初心に立ち返らせていただける気がして、意気込んでいます」
松岡さん「僕も以前から世田谷パブリックシアターさんの公演に出演したいと思っていましたので、2つ返事でお引き受けさせていただきました。今年から新たに発足した『せたがやアートファーム』に参加できるということもとても嬉しいです。夏休みでたくさんの方がいろいろな場所から来られる時期に上演されますので、ぜひ多くの方にご来場いただけたらと思います」
―とてもファンタジックでお子さんも楽しめる作品でありながら、実は深いテーマを感じさせる作品だと感じましたが、お二人は脚本を読んだ印象はいかがでしたか?
咲妃さん「まさにおっしゃる通りで、とても奥行きのある物語だと思いました。読み重ねていく中で彩りが増していく感覚がありました。別役さんの作品の魅力の一つであり、長く愛される理由なのだろうなと思います」
松岡さん「最初に読んだ時は、頭と体をさまざまな場所に連れていってくれる戯曲だなと思いました。最後の核となるところをあえて言わなかったり、ミスリードをさせることで、読み手の発想を膨らませるという技法がありますが、そうした技法が戯曲にも余すところなく使われています。ただ、今、稽古をしているとその印象がガラリと変わってきました。そういう意味でも、非常に楽しい稽古をしています」
―綱渡りや空中ブランコなど、サーカスはどのように表現されるのですか?
咲妃さん「多くは語れませんが、“実際にやります”とだけお伝えしておきます(笑)。プロフェッショナルな方々がご自身の技をいかんなく発揮していらっしゃいます」
―音楽劇の出演者に、サーカスアーティストの方が名を連ねていることはなかなかないことですよね。
咲妃さん「そうですね。お稽古場にさまざまな風が吹いている気がします。その風はぶつかり合うわけではなく、調和し合って、お互いの流れを楽しんで、吹き抜けているような感じがして、すごく心地がいいです」
松岡さん「東西南北から風が吹いて、考え方も違う人たちが集まっていて。あちこちの風が集まったら、雷雲が起きそうですが、それが全くないんです。皆さん人が好きな方たちなんだなという印象があります」
―それぞれ役柄については、今はどのように考え、どんなところを意識して演じたいと思っていますか?
咲妃さん「キキは、どこにでもいる平凡な女の子だと、自分のことを言い表します。ロロがキキの中に眠っていた才能に光を当ててくれて、空中ブランコに辿り着きました。私が『キキはこういう子だ』と決めてしまうのは違うのではないかなと今、考え始めていて。役作りで迷走中です(苦笑)。稽古の早い段階で、(演じる役は)こういう性格で、こういう人物だと定めて1本の道を歩けたらこんなに楽なことはないですが、今は、あえてそこを外して挑戦しているのですごく不安定ですが、一役者としては勉強になると感じています」
松岡さん「僕も、毎日人格が違っています。僕自身は、徹底的に役作りをするタイプなので、今回もピエロやサーカスの歴史までいろいろと調べてから稽古に入りましたが、稽古で演じている動画を見ると毎日違うんです。何をやっているんだろうと自分でも思うけれども、やっている時は自分の意識はなくて。今は、動画を観て、客観的に『これはありなのか、なしなのか』と考える日々です。ただ、そのジャッジをするのは自分ではなく、演出家だと思うので、心の中で演出家と戦っています。そうした中ではありますが、ロロを一言で言えば、すごく明るい人物。でも、明るさがあればその分、影もできるので、影の濃淡に気をつけて、何よりも相手から受け取るものを大事に演じたいと思っています」
―劇中で、キキは何を投げ打っても空中ブランコの技を追求していく姿が描かれていますが、そうしたキキの思いには、俳優としてお二人も共感できるところはありますか?
咲妃さん「大共感です。私は、猪突猛進型で頑固者なので、『こうしたい。こうあらねばならない』と思ったら、そこに向かってまっしぐらになりがちです。過去を遡ると、宝塚歌劇団に所属させていただいていた頃は、とにかくエネルギーが全身に充満し続けていました。それは決していいことばかりではないことも今となっては理解できるのですが、ただ、そうした状態では、周りの人の言葉に耳を傾ける余裕が持てないんですよ。少なくとも、私は持てなかったです。なので、(この脚本の中で)ロロがどんなに心を砕いて、キキに一生懸命気持ちを伝えようとしてくれても、きっとキキにはなかなか届かないのではないかなと思います。もちろん、ロロの気持ちもよく分かりますが、キキの置かれている状況も理解できるので、演じていて苦しくもなります。そうした葛藤は舞台上でも滲み出ると思うので、お客さまにはそれをそのまま目撃していただこうという、変な覚悟も決まっています(笑)」
―松岡さんもキキの気持ちは理解できますか?
松岡さん「キキを抱きしめてあげたいくらい、僕も大共感です。僕ものめり込むタイプなので、視野が狭くなりがちで。特に22歳くらいまでは、期待や重圧を跳ね除けるためにがむしゃらに頑張っていたんですが、ある時、がむしゃらの方向性にも正しい方向性と正しくない方向性があると思うようになりました。『誰かのために頑張る』というのは、『自分がやりたいことをできない言い訳じゃないのか。まずは、自分のためにやろう』と思い始めたことで、のめり込み過ぎなくなったように思います。なので、キキが誰かの期待にずっと応え続けて、そうしないと自分が生きている価値がないと思ってしまうことも、すごくよく分かりますし、そんなキキに言葉をかける時は、より慎重にならないといけないと思います。寄り添いすぎても離れすぎても良くない、その距離感は非常に大事にしないといけないなと。キキの気持ちもロロの気持ちも痛いほど分かります」
―では、お互いの印象を教えてください!!
咲妃さん「ブロードウェイミュージカル『ニュージーズ』以来、2度目の共演なのですが、初共演の時はここまで色々な意見交換ができる関係性になれると想像していなかったので、とても嬉しいです。思慮深く、頭脳明晰な方だとは『ニュージーズ』のときから感じていましたが、今回、難しいお役をゼロから作り上げる過程を間近で見させていただいて、より一層尊敬が増しています」
松岡さん「前回共演させていただいた時は、あまり同じシーンがなかった分、今回ご一緒してみて、お芝居に対しての実直さを感じ、素晴らしい方だなと思いました。僕は、お芝居は信じることから始めるものだと思っているのですが、咲妃さんはやる前は悩んでいてもやり始めたら迷いがない。目を見て芝居をしていてそう感じたので、信頼して委ねたいと思いますし、尊敬しています。そうした気持ちを言葉にするとすごく希薄に聞こえてしまいますが…毎日、感謝しています」
―今作のメインビジュアルもとても素敵でした!! ピンクをベースとした華やかでアートなものに仕上がっていましたが、ビジュアル撮影時のお衣裳などについても教えてください。
咲妃さん「こんなに可愛らしいお衣裳を身にまとわせていただける機会は滅多にないので、楽しかったです。脱ぎたくないと思ったほど(笑)、可愛くて好きでした!! 同じような色味でも、全員まるで違うデザインというところが、この物語の世界を表しているようで。(松岡さんの衣裳も)すごく面白い衣裳だよね?」
松岡さん「いろいろな布を繋ぎ合わせているんです。普段なかなか付けることのないパールのイヤリングもさせていただいて。こうしたビジュアル撮影でもつけたことはないので、『パール似合いますね』と言われてテンションが上がったのを覚えています(笑)」
咲妃さん「実際のお衣裳はまだこれからですが、デザイン画を見させていただいたら、すごくワクワクしました。視覚的にも楽しんでいただけるんじゃないかなと思います」
松岡さん「(構成・演出の)野上(絹代)さんは大学で芸術分野の教鞭をとっていらっしゃるというのもあって、この作品はすごく芸術的な作品になると思います。なので、美大生の方やファッションに興味ある方、アートに興味ある方にも楽しんでいただける作品になるのではないかなと思います」
―ありがとうございました!! 最後に、作品への意気込みと読者へのメッセージをお願いします。
咲妃さん「ひと夏の思い出にぜひ足をお運びいただきたいなと思います。お楽しみいただける要素いっぱいの作品です。両手を広げてお待ちしていますので、ぜひぜひ飛び込んできてください。お待ちしております」
松岡さん「僕も両手を広げて、無防備な状態で待っています(笑)。目が足りない舞台になると思いますし、見どころもたくさんあります。ただ、物語はシンプルなものになっているので、自由な感性で楽しんでいただけると思います」
▶︎咲妃みゆさん&松岡広大さんのファッション事情◀︎
―普段はどんなファッションがお好きですか?
咲妃さん「私は年々、シンプルな格好になってきている気がします。ネイビーやホワイトの洋服に、小物で差し色を加えるというファッションに今は興味があります。それから、パンツスタイルが好きです。どんどん動きやすさ重視になっていて」
松岡さん「僕は、1年に1回買うかどうかというくらい洋服が変わらないんです。長く大事に。でも、僕も年々シンプルになってきている気がします。色は暗めでシャツを羽織ることが多いので、いろいろな生地のシャツを持っています」
―今回の撮影で着用したお衣裳のお気に入りポイントは?
咲妃さん「少女性を感じていただけるようなお衣裳がいいなと思って、淡い色味のワンピースを選ばせていただきました。襟に特徴があるのもポイントです。足元は大人っぽくして、少女の中にもさまざまな面があるというところを表現できたらと思って選ばせていただきました」
松岡さん「僕は会場に合わせたジャケットとスラックスです。今回はあまり肩肘を張っていないように見せたかったので、インナーはTシャツにしてみました」
【profile】
咲妃みゆ/Miyu Sakihi
1991年3月16日生まれ。宮崎県出身。
2010年宝塚歌劇団に入団、2014年雪組トップ娘役に就任。2017年退団。退団後もミュージカルや舞台を中心に活躍中。2021年第46回菊田一夫演劇大賞、2024年第31回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。近年の主な舞台作品は、『NINE』『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』、『ニュージーズ』『衛生~リズム&バキューム~』 『ゴースト』、『千と千尋の神隠し』、『マチルダ』『少女都市からの呼び声』、映画作品は、『窮鼠はチーズの夢を見る』、『アイの歌声を聴かせて』劇中アニメ挿入歌、ドラマ作品は、『まだ結婚できない男』、『警視庁強行犯係 樋口顕 Season2』、『津田梅子〜お札になった留学生〜』など。
▪️公式Instagram
https://www.instagram.com/miyusakihi/
▪️公式X
https://x.com/miyusakihi_FC
松岡広大/Koudai Matsuoka
1997年8月9日生まれ。東京都出身。
2012 年、俳優デビュー。2015 年、ライブ・スぺクタクル『NARUTO-ナルト-』でうずまきナルト役として初主演を果たすなど、舞台、 映像などで活躍中。
主な出演作品は、【舞台】劇団☆新感線『髑髏城の七人 Season 月《下 弦の月》』、『るろうに剣心』、『恐るべき子供たち』、『迷子の時間-語る室 2020-』、『ニュージーズ』、『スリル・ミー』、『ねじまき鳥クロニクル』、【ドラマ】「壁 サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている」「around1/4 アラウンドクォーター」(ABC)、「らんまん」(NHK)、「錦糸町パラダイス~渋谷から一本~」(TX)、【映画】「いなくなれ、群青」「沈黙の艦隊」「八犬伝」など。
▪️公式Instagram
https://www.instagram.com/koudai_matsuoka.official/
▪️公式X
https://x.com/koudai_official/
【公演概要】
■タイトル
せたがやアートファーム2024
音楽劇『空中ブランコのりのキキ』
■日程・会場
2024年8月6日(火)~8月18日(日) 世田谷パブリックシアター
■原作 別役実(童話「空中ブランコのりのキキ」「山猫理髪店」「丘の上の人殺しの家」より)
■構成・演出 野上絹代
■音楽 オオルタイチ
■脚本 北川陽子
■サーカス演出監修 目黒陽介
■出演
咲妃みゆ 松岡広大/玉置孝匡 永島敬三 田中美希恵/谷本充弘 馬場亮成 山下麗奈/瀬奈じゅん
サーカスアーティスト 吉田亜希 サカトモコ 長谷川愛実 古川健斗 目黒宏次郎
▪️公式ホームページ
https://setagaya-pt.jp/stage/15937/
(2024,08,06)
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photo:Hirofumi Miyata/styling:Yukie Kunimoto, Kyu(Yolken)/hair&make-up: Mariko Chiba, Sayaka Tsutsumi/interview&text:Maki Shimada
下記のリンクのインスタグラムに咲妃みゆさん&松岡広大さんのインタビュー撮影時のアザーカットを公開いたします!!
お見逃しなく!!