世界の演劇界で注目されている 劇作家サイモン・スティーヴンスの 2 作品が桐山知也の演出で2月15日からシアタートラムで上演されています。
1幕は、連続爆破テロ事件を背景に都市生活者の孤独をオムニバスで描く『ポルノグラフィ』。 2幕は大晦日のイギリスの都市・マンチェスターの混乱を群像劇で描く『レイジ』 の二本立ての上演となり、『ポルノグラフィ』は、演出の桐山さんが2021年にKAAT神奈川芸術劇場でリーディング公演として上演し、大好評を博した作品です。
ベルリンに留学した経験を活かし、ブレヒトやシェイクスピア、チェーホフなどの翻訳劇のほか、古典劇から新進作家の戯曲まで幅広く演出を手掛けるなど精力的に活動を広げている桐山知也さんへ作品上演への思いをたっぷり語っていただきました。
※このインタビューは稽古期間中に行いました。

 

ーこの作品が世田谷パブリックシアターで上演することが決定したときの気持ちを教えてください。
嬉しかったです。この仕事を始めてから一番長い時間を過ごしている劇場ですし、芸術監督の白井晃さんや前監督の野村萬斎さんとご一緒させていただき親しんできた劇場ですので、そこで作品を創れるということはとても嬉しかったですね。

 

ー2021年KAAT神奈川芸術劇場での上演がありましたが、その時に白井さんとは今回の上演について何かお話をされましたか?
KAATでのリーディング公演は、白井さんがKAATの芸術監督時代の企画でした。コロナ禍で延期になり、現在の芸術監督の長塚圭史さんになってから上演し、白井さんがそれをご覧になったときには「とても刺激的だった」とお話ししてくださいましたが、そのときは今回の上演についてのお話しはなかったですね。

 

ー1幕がオムニバス構成の「ポルノグラフィ」、2幕が「レイジ」と二本立ての上演となりますが、桐山さんが考えている見どころを教えてください。
見どころはそれぞれにありまして、休憩を挟んで2本同時に上演するのですが、1本は「静」、もう1本は「動」という感じがしています。1幕の「ポルノグラフィ」は静かに少し人の心の中を覗き見る、覗き聴くみたいなイメージがあって、「レイジ」の方は怒りだったり、直接的な暴力も出てきますが、それを見せつけられる、突きつけられるような感じがありますので、2つの作品の対比がうまく出るようにしたいと目論んでいます。

 

ー「11名の実力派キャストが挑む」というコメントがありますが、桐山さんからみたキャストの皆さんの印象を教えてください。
皆さん実力があるのはもちろんですが、個性的で、お芝居が本当にお好きなんだなと感じています。今回は全員が一緒に出るシーンというのは少ないですが、全員で作っていく意識で、その結果がお客さまに届くように稽古もやっていきたいです。11人の個性や考え方、表現の仕方をうまく作品に反映させたいですね。

 

ーNorieMで以前ご紹介したsaraさん、田中亨さんが出演されます。お二人に期待することを教えてください。
おふたりとも今回初めてご一緒します。舞台を拝見したときに感じたのは、繰り返しになりますがお芝居が好きなんだなということと、まっすぐというか純粋さみたいなものがあり、すごくキラキラしてるなと感じました。今回、そんなふたりに「ポルノグラフィ」では近親相姦の姉弟を演じていただくので、それをどう演じるか楽しみです。でも一方でふたりが持っている純粋さみたいなものは失って欲しくないと思っています。そのふたりが2幕の「レイジ」では、別の姉弟を演じたりしていただくので、この2作品でどう変化させていくのかが楽しみだなと思っています。
お芝居に対して、すごくしっかりとした考えを持ってらっしゃるので、うまく化学反応が起きるといいなと思っています。

 

ー桐山さんが演出をする上で一番大切にしていることはどんなことですか?
お芝居は体力的にきついですし、辛いこともありますが、楽しくやりたいですよね。多くの人が集まることで思いもしなかったこともできますが、協力してやらなければいけないので、大変です。その大変さも含めて、いろいろなことを楽しみたい、楽しくやりたいと思っています。あとは、みんなが自由にやれること。僕もスタッフさんも俳優さんもこの作品に関わるすべての人が自由に喋ったり、行動できたり、あまり自由すぎても困るんですが(笑)、でもクリエーションに関しては、自由に話ができる環境を整えなければいけないなと思っていて、それは演出家にとって大事なことだと思っています。

 

ー世界観に没入しやすく、シアタートラムはとても素敵な劇場だなと感じるのですが、上演するシアタートラムという劇場についての印象を教えてください。
本当に刺激的な劇場で、サイズ感もとっても良く、僕自身も観客として集中して観れる感じがありますね。舞台とお客さんとの距離が物理的に近いというのもありますが、密度が濃くなる感じがします。今回客席を工夫して、さらに没入できるエリアを準備しました。アクティングエリアと観客席の境い目をなるべく無くすことでシアタートラムの密な空間が更にギュっとなったらいいなと思っています。

 

ー作品を通してお客さまにどんなことを伝えたい、持ち帰ってもらいたいと考えていますか?

あまり自分の作品からなにかあるメッセージを受け取っていただきたいとは思っていないのですが、まずふたつの作品を通してひとつの世界が立ちあらわれるようにしたいと思っています。その世界は今僕らが住んでいる2025年であって、お芝居の世界がただそこにあるというのではなく、僕らの話だな、私たちのことを言っているんだなと感じてもらえるといいなと思っています。「ポルノグラフィ」は、ロンドンのテロ事件の前後の数日の話で、「レイジ」はマンチェスターの大晦日の混沌とした模様をとらえたジョエル・グッドマン撮影の写真を元に書いていますが、2005年から2015年、2025年と時代が僕らの方が近づいてきた、時代が迫ってくるという感じです。今はあまり良い方向に時代が動いてないような感じがしていて、劣化していると思っているのですが、劣化してるということを持って帰ってもらいたいのではなく、自分たちの生きている世界、大きい世界ではなく自分の身の回りの世界や生活でもいいんですが、少し立ち止まって考える――それが社会に対して批評的でなくてもいいと思いますし、なんか幸せだなと思っても全然構わないんですが――自分のことのように、ふっと立ち止まってもらう瞬間が生まれたらいいなと思っています。

 

ーこの作品をこの時期に上演したいと考えた理由はどんなことですか?
この時期にこの作品を上演したいというよりも、ずっと気になっていた作品をやったらぴったりだった感じですね。コロナ禍の時期は、本当に大変で「どうなってしまうんだろう」と考えていましたが、それを経て自分がお芝居をやるスタンスが変わったかというと、あまり変わっていなくて、お芝居の力というのはまだそのままあると思います。コロナ禍では、身体的接触ができないという不自由さの中で作品を作ることがあり、改めて人と繋がるということは大変なことなんだと感じ、大事にしたいなと感じました。お芝居で動きをつけたり、動きを作っていく時にも、どんなことを表現しようとしているのか、どんな思いでやっているのだろうということを、もっともっとすくい上げたい、俳優さんと共有したいと思っています。

 

ー最後にこの作品をご覧になる皆さんへメッセージをお願いします。
世田谷パブリックシアターの主催公演らしい、すごくエッジの効いた企画だと思います。これを逃すと多分こんな演劇体験はなかなかないと思いますので、少しでも興味を持っていただけたら、劇場にきて体験目撃していただけると嬉しいです。特別な時間と空間を皆さんと共有できるのではないかと思っております。


【profile】
桐山知也/Tomoya Kiriyama
主な作品に『紙風船』、『命を弄ぶ男ふたり』(03 年/水戸芸術館 ACM 劇場)、『ベニスの商人』(05 年/水戸芸術館 ACM 劇場)、『THE GAME OF POLYAMORY LIFE』(16 年/趣向)、『彼らもまた、わが息子』(20 年 /俳優座劇場プロデュース)、『門』(20 年/劇壇ガルバ)、『ポルノグラフィ』(21 年/KAAT 神奈川芸術劇場 リーディング公演)、『THE PRICE』(22 年 /劇壇ガルバ)、『彼方からのうた』(24 年/ゴーチ・ブラザーズ)、『最後の面会』(24 年/名取事務所)など。また、演出助手等として、白井晃、野村萬斎、蜷川幸雄、サイモン・マクバーニーといった演出家の作品に参加。近年の参加作品に『ある馬の物語』(23 年/白井晃演出)『子午線の祀り』(21 年/野村萬斎演出)『罪と罰』(19 年/フィリップ・ブリーン演出)『ハムレット』(19 年/サイモン・ゴドウィン演出)などがある。2010 年文 化庁新進芸術家海外研修制度研修員として 1 年間ベルリンにて研修。

 

【公演概要】

■タイトル
サイモン・スティーヴンス ダブルビル
『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY/レイジ RAGE』
■日程・会場
2025年2月15日(土)~3月2日(日) シアタートラム

■作 サイモン・スティーヴンス
■翻訳 小田島創志(『ポルノグラフィ』)/ 髙田曜子(『レイジ』)
■演出 桐山知也
■空間構成 木津潤平
■照明 横原由祐
■音響 稲住祐平
■衣裳 加納豊美
■ヘアメイク 鎌田直樹
■アクション 渥美博
■演出助手 戸塚萌
■舞台監督 大垣敏朗
■プロダクションマネージャー 勝康隆
■制作 田辺千絵美、豊島勇士
■プロデューサー 浅田聡子
■宣伝美術 秋澤一彰
■宣伝写真 山崎伸康
■宣伝スタイリスト 加納豊美
■宣伝衣裳提供 ヨーガンレール
■宣伝ヘアメイク 鎌田直樹
■出演
亀田佳明、土井ケイト、岡本玲、sara、田中亨、
古谷陸、加茂智里、森永友基、斉藤淳、吉見一豊、竹下景子
■スウィング 伊藤わこ 森永友基

(2025,02,18)

photo:Hirofumi Miyata/interview&text:Akiko Yamashita

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