2019年に現代に潜む家族問題を扱ってオフ・ブロードウェイの話題をさらった舞台『リンス・リピート』が日本で初上演されます。娘・レイチェルが摂食障害を患ったことで浮き彫りになる、家族のすれ違いと苦悩を描いた本作で、母親・ジョーンを演じるのは寺島しのぶさん。レイチェル役を吉柳咲良さんが務めます。今回は、吉柳さんに本作への意気込みや稽古の様子、見どころ、さらにはファッションについてお話いただきました!!

 

―最初にこのお話を聞いたときのお気持ちをお聞かせください。
この舞台のお話を聞いたときは、まだ日曜劇場『御上先生』の撮影をしている最中で、椎葉春乃という重いものを背負っている役を演じていました。次に演じる役は明るくできる役だといいなと思っていたら、椎葉を超えてくるレベルの重さで(笑)。まさかこうした役をいただくとは思っていなかったので驚きましたし、なんとも言えない気持ちになりましたが、台本を読んでこの舞台のテーマでもある「自分を救えるのは自分だけで、先に進めるのも結局は自分の力でしかない」というメッセージから「逃げるな」と言われている感覚がありました。レイチェルは自分と似過ぎていて、気持ち悪いと思ってしまうほどだったんですよ。ですが、向き合わなければいけないときがきたんだと感じました。今、この役を任されたことには意味があると思いながら、毎日、お稽古しています。

 

―「自分と似過ぎている」とおっしゃいましたが、どういうところがレイチェルと似ていると思われたのですか?
本心を口にしたときに、相手の反応を見てすぐに「もう大丈夫」となかったことにしたり、本当の気持ちを必死に隠しながら気遣ってばかりで、明るく振る舞ったりする姿に共感できました。レイチェルはきっと周りの人全員に気を遣っていて、それが他人だとか家族だとかいう区切りはないんです。今、その場が円満で、空気を壊さないということを優先するタイプなのだと思います。私もわりとそういうタイプで、人の顔色を伺って、みんなが嫌な思いをしていないかを気にしてしまうところがあるので、すごく理解できます。それから、レイチェルは詩を書くのですが、私も自分の思っていることを携帯などに残しています。詩ではないのですが、そこも似ているなと感じました。

 

―今、お稽古をしていて演じる上でどんなことを意識されていますか?
(演出の)稲葉賀恵さんともお話ししたのですが、レイチェルは確かにものすごく気を遣っている子ではありますが、それを芝居で見せる必要性はないのかなと。彼女がうまく隠せているから、その明るさが本当のように見えてしまう。だから、家族が誰もその違和感に気付かなかったのだと思います。ブロディという弟だけが、「お母さんの言うことを聞かなくてもいいんだよ。本当はどう思っているのか、今だったら言ってもいいんじゃない?」と言いますが、それは同じ親を持つ子どもとして同じ目線で見てきたからこそ分かることであって、それを親たちは気づいていないんです。彼女の中では気遣いがあるけれども、それは心の根底にあるもので、表立って「この子は気を遣っているんだな」とお客さんに分かる必要はない。最終的にこの物語を全て知れば、彼女の心の裡が分かるので、無理に気遣っている芝居をしないことを今は意識しています。

 

―なるほど。そもそも最初に脚本を読んだとき、吉柳さんはこの作品のどんなところに心を惹かれたのですか?
あまりにもリアルで生々しいと思いました。家族なんだけれどもどこか他人行儀で、お互いに様子を伺いながら話している。それは、彼女が摂食障害になって、治療室に入らなくてはいけないくらい痩せてしまって、回復の兆しも見えなかったからなのだと思います。退院して帰ってきても、少しは良くなっていたとはいえ、どうなるか分からない。腫れ物扱いではないですが、家族もすごく気を遣っている。レイチェルはレイチェルで家族に気を遣って、わがままを言えずにいる。なので、他人のような距離感を感じるんだと思います。お互いに様子を伺いながら話していて、でもその空気を壊そうとするブロディがいて。その生々しさがすごくリアルで面白いと思いました。それから、レイチェルは話す相手によってラフだったり、わがままを言えたりするのですが、その関係値が濃く描かれているのも素敵だと思います。物語の終わり方も私はすごく好きです。最後まで見ていただくと、改めてそれぞれの気持ちが理解できると思います。キービジュアルを見ていただくと分かると思うのですが、誰も同じところを見ていない家族なんです。それぞれ違う方向を向いているというのがこの物語を象徴しているように思います。

 

―見る人によって共感をしたり、心を寄せる人物が全く違いそうですね。
違うと思います。基本的にはレイチェル目線で物語が進んでいきますが、私はブロディも主人公のように見えます。彼は彼でいろいろなことに悩まされていて。なので、注目する人を変えることで見え方が全く変わってくる舞台だと思います。

 

―お稽古場の雰囲気はいかがですか?
実は今日(取材日)から立ち稽古が始まるところです。読み合わせを何日かさせていただいて、解釈を深めるという作業をみんなでできたのでそれがすごく良かったなと思います。たくさんディスカッションができましたし、細かいところまでみんなで考えて、セリフのニュアンスも一つずつ確認して。みんなが対等に話せる関係値でディスカッションができているので、いい空気感で稽古ができていると思います。立ち稽古の前に全員が解釈を一緒に深めて共通認識を持っていることで、その先の稽古がスムーズに進んでいくと思うので、それができる時間があるのはすごく有意義だと思いました。

 

―稲葉さんの演出の印象は?
(稲葉から)セットについてお話を聞かせていただいたのですが、全てピンクなんだそうです。それは、お母さんの子宮の中を表しているからだと。子宮に見えるように上の方がざらざらしていたり、レイチェルのベッドのライトが心臓の形をしていて鼓動のように光っていたり、細かなところまで意味を持たせているので、ぜひセットも見ていただきたいです。それから、私は今のところ舞台上で全て着替えることになっているので、どうなるんだろうとすごく楽しみにしています。

 

―では、共演者の皆さんの印象お聞かせください!!
皆さん、すごく個性がある方ばかりだと思います。寺島さんとお芝居させていただくのはとにかく緊張します。その緊張感は、レイチェルが母親にどこかで認められたいと思っていたり、否定されるのが嫌だと思っている緊張感とリンクさせることができるのかなと思います。寺島さんご自身は、すごくフラットにお話を聞いてくださる方で、ディスカッションをしやすい空気感を作ってくださいます。寺島さんがセリフの言い回しをいろいろと試してより良い言い方を探していらっしゃって、挑戦することの大切さを背中で見せていただいている感覚があります。(父・ピーター役の)松尾(貴史)さんもフラットな方で、さまざまな案を出してくださったり、「ここはこうだよね?」と議題をたくさん出してくれださって、すごく良い空気感を作ってくださいます。

 

―ありがとうございました!! 改めて、この作品を通して伝えたいことや注目してもらいたいところを教えてください。
センシティブな問題だと遠ざけるのではなくて、誰にでも起こる身近なことなのだと感じていただけたら嬉しいです。摂食障害がなかったとしても、家族の中でズレが生じたり、近すぎるからこそ見えないものもあります。きっと多くの方が感じたことがあるであろう感情が描かれているので、すごく身近に感じていただけると思います。今回、紀伊國屋サザンシアターで上演しますが、客席が近い劇場になっていますので、より身近に生々しいリアルな空気感を体感していただけると思います。演劇では前に進んでいる姿や進めたところまでを描くことが多いですが、現実には抜け出せなくて苦しんでいたり、停滞していたり、悩まされる日々があります。先に進むことはすごく大切なことですが、そこばかりに注目するのではなく、もがき苦しんでいるレイチェルを大切に演じたいと思っています。そうしたレイチェルの姿にもきっと共感していただけると思いますが、もちろん、誰に共感するのも、何を持って帰るのも観てくださる方の自由です。この作品をご覧になってどんなことを考えたのか、私も皆さんと共有できたらすごく嬉しいです。


▶︎吉柳咲良さんのファッション事情◀︎
―お衣裳のポイントは?
ウエストがキュッと締まっていて、裾にいくほど広がっているパンツの形が好きです。私、普段からパンツがめちゃくちゃ好きなんです。「大きすぎるんじゃない?」というくらいのワイドパンツが好きです。ワイドに履こうとするとウエストがゆるいことが多いのですが、このパンツはそれがないので、すごく気に入っています。これまで白のお洋服はあまり着る機会がなかったのですが、今回は取材会の背景に合わせて白で統一しています。首元が開いているので寂しくならないようにとアクセントに紐も使っています。かっちりしたスタイルは好きなのですが、なかなか着る機会がないので、それもまた嬉しかったです。

―普段はファッションにどんなこだわりがありますか?
最近は、よく骨格別のファッションがSNSなどで紹介されていますが、私自身はそれにとらわれず、好きなものを着たいと思っています。ただ、自分がよく見えるスタイルというのはあって。私も襟が詰まっていない服の方がスッキリして見えるとか、カチッとした生地や光沢感のあるパンツの方が良かったり。逆に、柔らかい小ぶりのデザインのものはあまり着ることがなくて、大きい柄や原色が好きです。

 

―吉柳さんは演じている役に合わせて普段のお洋服も変えるそうですが、今回も私服からレイチェルらしいファッションになっているのですか?
そうですね。レイチェルは体型を隠すために大きめの服を着て、痩せている見た目を緩和させようとしているのが見え隠れしているので、ラフなものを選ぼうかなと思っています。レギンスを履いていることも多いので、レギンスも買いました!!

 

―では、本作にちなんで、吉柳さんが「依存している=こればかりやってしまう」ということは?
カラオケと服を買うことに依存しています(笑)。カラオケは3日に1回のペースで行きたいと思っていますが、今はなかなか時間がなくて。なので、代わりにネットで洋服を見てばかりいます(笑)。服を見るのがとにかく好きなので、お店に見に行くことも多いです。お休みの日は、自分の中でテーマを決めて服を選ぶんですよ。例えば、「今日のテーマは『乃木坂46』」と決めて乃木坂46さんのイメージに合う服を選んだり(笑)、「今日はバチバチに決めよう」と思ったらちゃんみなさんの曲を流しながら、強めのメイクをしてレザーのアイテムを選んだり。それから、ブーツが好きなので、ブーツをよく履いています。夏でも履いていることが多いですね。

 

―最近買ったお気に入りのアイテムは?
最近は、「MAISON SPECIAL(メゾン スペシャル)」の服にハマっていて、赤いセットアップを買いました。赤がとにかく好きなんです。ブーツも赤いラメのものを持っています。それから、靴下もめちゃくちゃ好きです。「御上先生」で共演した髙石あかりさんも大好きで、おしゃれな靴下をよく持っていますが、私の場合はご当地靴下です(笑)。お友達が地方に行ったときにお土産に買ってきてもらったり、お仕事であちこちに行かせていただいたときに買っています。

 

【profile】
吉柳咲良/Sakura Kiryu
2004年4月22日生まれ。栃木県出身。
2016 年に「第 41 回ホリプロタレントスカウトキャラバン PURE GIRL 2016」で当時歴代最年少グランプリを受賞し、翌年ミュ ージカル『ピーター・パン』の10代目ピーター・パン役に抜擢され俳優デビューを果たす。映画・ドラマへの出演に加え、話題 のアニメ映画『天気の子』(2019)、『かがみの狐城』(2022)では声優も務めるなど、活躍の場を広げている。近年の主な出演作に【舞台】『ロミオ&ジュリエット』(2024)、【ドラマ】連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK・2024)、土ドラ10「マル秘の密子さん」(日本テレビ・2024)、日曜劇場「御上先生」(TBS・2025)、【映画】『初恋ロスタイム』(2019)、『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』(2024)、実写映画「白雪姫」プレミアム吹替版(2025)などがある。
また、2024年には1st single「Pandora」にてアーティストデビューもしている。
■公式ホームページ
https://www.horipro.co.jp/kiryusakura/
■公式Instagram
https://www.instagram.com/kiryusakura_official/
■公式X
https://twitter.com/kiryusakura422

photo:Hirofumi Miyata/styling:hao/hair&make-up:折原絵理/interview&text:Maki Shimada

Jacket:¥26,812(Atelier Nain/nugu pressroom お問い合わせ https://www.nugu.jp/)
その他スタイリスト私物


【公演概要】
■タイトル
リンス・リピート―そして、再び繰り返す―
■日程・会場
2025年4月17日(木) ~5月6日(火・休) 紀伊國屋サザンシアター
■脚本 ドミニカ・フェロー
■翻訳 浦辺千鶴
■演出 稲葉賀恵
■出演
寺島しのぶ 吉柳咲良 富本惣昭 名越志保 松尾貴史
■公式ホームページ
https://horipro-stage.jp/stage/rinserepeat2025/

(2025,04,09)

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下記のリンクのインスタグラムにインタビュー撮影時のアザーカットを公開します!!

お見逃しなく!!インタビューの感想もぜひコメントください。

https://www.instagram.com/noriem_press/